全脳自由帳

より考えるために書く

蛍の二つ三つ

ゆきえさんのブログでイギリス人に日本語の助詞を教える話「nihongo」を読んで、高校の国語の時間のことを思い出した。

先生がおもむろに黒板に

米洗う 前(    )蛍の 二つ三つ

と書いた。カッコの中に助詞を入れよという問題である。

「に」と誰かが言った。「米洗う 前に蛍の 二つ三つ」。「もっといいのないか?」と先生。「で」というのも出た。「へ」という声に「ほほう、『前へ蛍の』ね。蛍が前へ飛んでくるという動きが出ている。でももっといいのがある」。

正解はこれ。

米洗う 前蛍の 二つ三つ

蛍の飛び回る動きがよく表現されている。作者不詳の有名な俳句らしい。

我々はこれら「に」「で」「へ」「を」の違いをなんとなく理解できるが、じゃあどういう違いかと言われると説明するのは難しい。

まず正解の「を」。日本語を文法から学ぶなら、「を」はまず「ボールを投げる」のように目的語につく助詞として覚えると思う。対して上の俳句は「米を洗う人の前を蛍が二匹三匹飛び回る」ということだが、「前」が「飛び回る」の目的語とは言いがたい。「空を飛ぶ」の「空」も同じである。「ボールを...」とは違う用法だろう。

「を」単独の意味や働きをきちんと説明するだけでも難しいが、それを「に」「で」「へ」などと比較するとなるとさらにややこしいことになる。これらの助詞を上の俳句に当てはめた場合、全て違う意味・ニュアンスを持ってくる。蛍の動作からして違うのである。それを外国人に教えるのは至難の技だという気がする。

もちろんこんなことは日本語だけにあることではなくて、他の言語にもややこしくてデリケートな問題は必ずあるはずである。例えば英語の前置詞・助動詞・冠詞の使い方にはいつも悩まされるが、我々は使い分けをちゃんと理解していないだけでなく、そういうややこしい話がどのくらいたくさんあるのかも理解できていない。道のりは長いのである。