- 作者: アントニイ・バークリー,高橋泰邦
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1971
- メディア: 文庫
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ロジャー・シェリンガムを会長とする「犯罪研究会」にゲストとして招いたスコットランド・ヤードの首席警部が持ち込んだ難問題。ロンドンのクラブに送られてきた新製品のチョコレートにより、毒殺事件が発生する。この一見単純な事件に対し「犯罪研究会」の面々が、次々と珍説、奇説を披露する。二転三転する真相。本格推理小説の醍醐味を満喫させる奇才バークリーの傑作長編!
この作品の「形式」を最初から知っていたせいか、どうもそれに合わせて無理に作ったストーリーのように見えて、話に乗れなかった。次々と披露される推理がどれも不十分に見える。ただし最後の締め方はうまい。「様式美」を実現した作品だと言うべきか(屈折した見方?)。
乗れなかったもう1つの理由は、文章(日本語訳)がわかりにくかったこと。ある程度しょうがないことなのだが、いかにも「翻訳調」の文が続く。
(P61〜2)
一つの本物だが扱いにくい事実をひねくり回して、ふつうの人(たとえば検事)なら捨ててしまうだろうようなことから、全然別の解釈を与えることを、彼ほど自信に満ちてやれる者は、法曹界に一人もいなかった。
最初から日本語で書くとこんな文章は出てこない(「〜だろうような」なんて普通は言わない)。内容が推理合戦なので、普通の小説より論理的にきちんと理解することが要求されるのに、文章が日本語として不自然なのはつらい。
それと、これはどうしようもないことだが、事件の中心となるペンファーザー夫妻とベンティックス夫妻の4人のどれが誰か、最後まで混乱してしまった。2つの姓が変に似ているのが原因。1文字目からして「ぺ」「べ」で一応違うし、3文字目からは全く異なるのに、最初に思った以上に区別のつきにくい名前だった。おまけにペンファーザー卿(夫)の方は下の名前で「クリステス卿」とも呼ばれるので余計にややこしい。
日本人読者には不幸なことである。原文ではPennefatherとBendixらしい。頭文字からして違うから、英語で読む人は困らないはず。こっちも日本の名前なら、たとえば「中山」「中村」でも全然困らない。それぞれの姓に固有のイメージがなんとなくできあがっているからである。