全脳自由帳

より考えるために書く

犬神家の一族(横溝正史)

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

横溝正史を読み込もうと思ったらこれをはずすわけにはいかない。昔のブームの象徴のような作品。

信州財界一の巨頭、犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、血で血を洗う葛藤を予期したかのような条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は生涯正室を持たず、女ばかり三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一幸助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林がやがて何者かに殺害される。だが、これは次々と起こる連続殺人の発端にすぎなかった! 血の系譜をめぐる悲劇、日本の推理小説史上の不朽の名作!!

市川昆監督の映画があまりにも有名で、ハイライトをテレビで観たことがあり、殺人のシーン(迫力満点である)も出てきた。したがって誰が殺人犯なのかは読む前にほぼわかってしまっていた。それでも全編に流れる独特の空気は十分に味わうことができる。古い小説であるせいか、陰惨さの中にも若干の滑稽さを感じてしまう。

旧家の一族ものというのは人間関係・血縁関係がややこしいことが多いが、この作品もその例に漏れない。誰が誰の何なのかわからなくなるので、途中で出てくる系図を何度も見てしまった。事件のしかけも複雑なもので、殺人シーンを観ていたというだけでは到底全貌はわからない。それらにいわゆる「見立て」の要素もからんでくる。

例によって金田一幸助は事件の防止という点では全く役に立たず、事件が一通り起こってしまってから真相を解明するというパターン。そういう彼のキャラクターと、野々宮珠世の聡明さ、そして真犯人の冷徹さと悲劇が印象に残った。

犬神家の家宝は(よき)(こと)(きく)。不勉強にして、斧を「よき」と読むということを知らなかった。