全脳自由帳

より考えるために書く

厭魅の如き憑くもの(三津田信三)

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)

2006年、刀城言耶シリーズ第1作。ホラーは苦手なのでずっと躊躇していたのだが、推理小説としていろんなところで評価が高いので読んでみることに。この作品では「厭魅(えんみ)」を「まじもの」と読む。

神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。本格ミステリーとホラーの魅力が圧倒的世界観で迫る「刀城言耶」シリーズ第一長編。

これはなかなかに怖い。日本の古い村独特の怖さが、横溝正史とはまた違った味で迫ってくる。途中から、なるべく夜遅くには読まないようにしていた。その怖さと連続殺人の謎解きとがうまく組み合わさっていて、読み応えのある作品だった。周到に用意されたしかけと、頼りなさがユニークな探偵役・刀城言耶による解決は圧巻。最後の最後はちょっととってつけたような感じになってしまっているが。

子供が消えてしまう「神隠し」の使い方がうまい。このような超常現象を採り上げた小説には、(1)それが作品世界でのルールになっているもの(例: 「七回死んだ男」のようなSFミステリー)と、(2)起こり得ないはずの現象が起こっているものとして(普通に)描かれるもの があり、(2)はさらに、最終的にその怪異のからくりが解明されるものとされないものに分けられると思う。この作品は(2)のうちどちらなのだろうと思いながら読んでいた。どちらだったかを書くのはやめておくけど。

村の地理と、谺呀治家・神櫛家の家系がかなり複雑で、最初にある村の見取り図と家系図を何度も見ることになった。特に空間把握の苦手な私には、この見取り図があってすら、作中に出てくるいろんな場所の位置関係を理解するのは大変だった。それなのに、ミステリー・リーグ版にはこれらの図がないらしい。そっちを読んでいたら途中で挫折していたかもしれない。

このシリーズ、他の作品も読まずにすませるわけにはいかないな。ホラーは苦手なのだが。