- 作者: 横山秀夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/06/10
- メディア: 文庫
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1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。
今月12日で、日航機墜落事故から24年が経った。当時私は大学生で、盆というのに夜まで研究室にカンヅメになっていて、下宿に帰ってつけたテレビで事故を知ったのだった。あの頃のことを思い出しながら読む。「圧力隔壁」という言葉を久しぶりに目にした。
事故の報道をめぐる記者たちの行動や心の動きに関する描写がいきいきとしている。さすがの筆力。大量の情報、何人もの意志と思惑、さらに偶発的因子がからみ合った結果として記事ができ、新聞が毎日発行されていく。事件への思い入れだけでは記事は書けないこと、メディアが発信する内容が客観的事実だけを伝えるものではないことを改めて思い知らされる。
その中で印象的なエピソードがいくつもあったのだが、要となる「投書」の話にはあまり入れ込めなかった。主人公がそこまでこだわる必要があるとはどうも思えない。あと、登山の方の側面はそれだけで心に残る話ではあったのだが、事故報道の方の側面が濃密であるせいか、両者が強く結びついている感じがしなかったのがちょっと残念。