
人それを情死と呼ぶ 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション (光文社文庫)
- 作者: 鮎川哲也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2001/07
- メディア: 文庫
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人は皆、警察までもが、河辺遼吉は浮気の果てに心中したと断定した。…しかし、ある点に注目した妻と妹だけは、偽装心中との疑念を抱いたのだった! 貝沼産業の販売部長だった遼吉は、A省の汚職事件に関与していたという。彼は口を封じられたのではないか? そして、彼が死んでほくそ笑んだ人物ならば二人いる。―調べるほどに強固さを増すアリバイ。驚嘆のドンデン返し。美しい余韻を残す長編。
アリバイトリックそのものは教科書に載りそうなもので、さすがにアリバイトリックの鮎川哲也という感じがする。一方で殺人事件の真相はとても複雑でドラマ満載。そちらの方にこそこの作品の価値がある。
「黒いトランク」でもそうだったのだが、容疑者をしぼり込むのがえらく早く、唐突に感じる。それもこの人の味ということなのか。真相究明の過程にはフェイントが入っていたりして、読者としては右往左往させられておもしろかった。タイトルの意味するところも深い。
「あとがき」で著者はこう述べている。
本篇には、汚職問題が登場する。だがそれを以って、作者がいわゆる社会派の作風によろめいたと評するのは、余りに近視的な観方だと云わねばなるまい。おなじ汚職という問題をとり上げた場合、本格作家はそれをどう料理するか。興味の一つはそこにあるはずである。
本格推理小説作家としての矜持がうかがえて興味深い。