全脳自由帳

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人形はなぜ殺される(高木彬光)

人形はなぜ殺される 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

人形はなぜ殺される 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

前々から読みたいと思っていた作品。1955年。

衆人監視の白木の箱の中から突如消えた“人形の首”。直後、殺人現場には、無惨な首なし死体と、消えたはずの人形の首が転がっていた。殺人を予告する残酷な人形劇。それは犯人からの挑戦状か!? 神津恭介がアリバイトリックに挑む! 著者の校正用初版本の加筆修正を採った決定版。同時期に書かれた短編「罪なき罪人」「蛇の環」も収録。

代表作と言われるだけあって、すごいトリックだった。タイトルにもなっている通り、殺人の前に人形が「殺される」ことにもちゃんと意味があり、単なる趣向ではない。途中で「読者諸君への挑戦」が挿入されるが、例によって全くわからず。終わりまで読んで、張り巡らされた伏線と事件の複雑な構造に感心した。

ただ、稀代の名探偵という設定の神津恭介のなんと頼りないこと。普通、探偵役というのは(真犯人を除いて)誰よりも先に真相をつかむものだが、他の人に助けられながら、青息吐息でやっとゴールへ。しかも「読者諸君への挑戦」が出た後でもまだあやふやなことを言っている(真の「挑戦」はもっと後にある)。そしてやたら反省ばかりしている。ともかく現時点で私のイメージは「神津恭介はヘタレ探偵」になってしまった。

それと、「能面殺人事件」の時にも思ったのだが、この人はあまり文章がうまいとは言えないな。人形を使った殺人予告、首斬り、魔術、黒ミサと、おどろおどろしい雰囲気を醸し出す材料が満載なのにあまり妖気が伝わってこないのは文章のせいだと思う。50年以上前の小説だということを差し引いても。

併録の短編「罪なき罪人」「蛇の環」はまあまあ。ここでも神津恭介はあまりシャープな探偵だとは思えなかった。