全脳自由帳

より考えるために書く

七十五羽の烏(都筑道夫)

七十五羽の烏 (光文社文庫)

七十五羽の烏 (光文社文庫)

1972年の作品。物部太郎シリーズ第1作。以前読んだ「星降り山荘の殺人」(倉知淳)の最後には、この作品に触発されたと書かれていた。

旧家に起こった殺人事件は、千年も前に怨みを残して死んだ姫君の祟り!? 登場するのはまったくやる気のない探偵、ものぐさ、いや物部太郎―。
作者は文中で(見出しも含めて)、ひとつも嘘をつきません。そして事件解決の手がかりは、すべて読者の前に明示されます。鬼才が精巧に練り上げ、フェアプレーの精神で読者へ挑戦する本格推理ファン必読の傑作!

読み始めたのはだいぶ前のことなのだが、途中で挫折してしばらく放置していた。挫折の原因は大したことではなく、場景描写がやたら細かいこと。謎解きにからんでくるかもしれないと思うと、いい加減に読み飛ばすこともできない。それでちょっといやになってきて中断していたのだった。思い立って最初から読み直して読了。

各節の先頭に作者からの説明文(何が起こるかの予告や簡単なヒント)が入っている。これを入れると確かにフェアな感じになる。この形式は「星降り山荘の殺人」で、少し工夫を加えた形で踏襲されている。

フェアで真っ向勝負なのはよかったし、ロジックはしっかりしていたと思うのだが、その分不可能犯罪的興味は満たされなかった。それと、犯人の動機が納得しづらいのは若干マイナスか。特にこの事件では動機が結構重要だと思う。

ものぐさ探偵・物部太郎は、逃げ出したがっているはずだったのに終盤は急にやる気満々でシャープな探偵になる。ちょっと描き方が中途半端。いやいややっているのになぜか結局事件を解決してしまう、といった感じを徹底してほしかった。