全脳自由帳

より考えるために書く

異人たちの館(折原一)

異人たちの館 (講談社文庫)

異人たちの館 (講談社文庫)

折原一は、「この作品には叙述トリックが使われている」と書いてもネタバレにならないくらい、叙述トリックの使い手として有名な作家。その代表作とされている作品である。下の紹介文にも「叙述ミステリー」とある(関係ないが、「叙述ミステリー」なんて言葉あるのか? 「叙述」は単に「物事を順を追って述べること」という意味なので、「叙述トリック(= 叙述のしかたによるトリック)」はいいけど「叙述ミステリー」は意味を成していないと思うが)。

富士の樹海で失踪した息子・小松原淳の伝記を書いて欲しい。売れない作家島崎に舞いこんだゴーストの仕事――。女依頼人の広大な館で、資料の山と格闘するうちに島崎の周囲で不穏な出来事が起こり始める。この一家には、まだまだ秘密がありそうだ。五つの文体で書き分けられた折原叙述ミステリーの最高峰!

いかん。カタルシスが得られなかった。600ページ以上の分量も気にならないほど一気に読めたし、複雑な叙述トリックに見事にだまされたのだが、読み終わると"So what?"感でいっぱい。「ややこしくするためにややこしくした」小説のように見える。あと、どうせややこしくするなら最後にもう一ひねりほしかった。

作者のサイトで「冤罪者」と並んでこの作品が「自選ベスト」に挙げられているくらいだし、実際トリックとしてはすごいと思ったので、満足できなかったのは好みの問題としか言いようがないな。「倒錯のロンド」もそうだったが、どうも私は、他のトリックとの組み合わせなしに叙述トリックだけで成り立っている作品は苦手らしい。