全脳自由帳

より考えるために書く

コズミック 流(清涼院流水)

コズミック流 (講談社文庫)

コズミック流 (講談社文庫)

「コズミック世紀末探偵神話」(1996年)を二分冊にしたうちの上巻。

「1年に1200人を密室で殺す」警察に送られた前代未聞の犯罪予告が現実に。1人目の被害者は首を切断され、背中には本人の血で「密室壱」と記されていた。同様の殺人を繰り返す犯人「密室卿」の正体とは? 推理界で大論争を巻き起こした超問題作。

前から「コズミック」や「ジョーカー」という作品が気になっていた。どうも普通のミステリー小説ではないらしい。壁投げ本だと言う人もいれば絶賛する人もいる。それに清涼院流水(清涼飲料水からのもじり)というふざけたペンネーム。

「コズミック」は「コズミック 流」(上巻)と「コズミック 水」(下巻)、「ジョーカー」は「ジョーカー 清」(上巻)と「ジョーカー 涼」(下巻)に分かれているので普通は「流→水」および「清→涼」という順に読むのだと思うが、「まえがき」で作者は以下の順番で読むことを勧めている。

  • コズミック 流 → ジョーカー 清 → ジョーカー 涼 → コズミック 水

この「清涼 in 流水」の順番で読むと「生涯で未体験の刺激」が得られるそうである。どういうことか全然わからないが、どうせなら、というわけでその順で読むことにした。

で、「コズミック流」。とにかくたくさんの人が「密室」で殺される。まだまだこれから。感想を書く段階にはない。ただ、思ったより文章が読みやすい。その点は助かった。壁投げ本かもしれない上に4冊読まないと完結しないのがわかっているので、読みにくかったら投げ出してしまうところだった。

『瑠璃城』殺人事件(北山猛邦)

『瑠璃城』殺人事件 (講談社文庫)

『瑠璃城』殺人事件 (講談社文庫)

城シリーズ第2作。2002年の作品。

1989年、日本。1243年、フランス。1916年、ドイツ―時代と国を超えて繰り返される密室殺人。図書館で胸を貫かれた女性、城から忽然と消えた6人の騎士、戦地で消えた4人の遺体。それらに隠れた、ある男女の恋の運命。不可能犯罪も輪廻転生したのか? 切ない思いと仰天トリックが全編彩る本格ミステリ

3つの時代にわたっていろんなものが出てくるのだが、雰囲気を醸し出すガジェットとしては前作「『クロック城』殺人事件」ほどにはわざとらしくなく、全体として楽しく読めた。結局何だったのかよくわからない話ではあったが。

北山猛邦といえば物理トリック。この作品は前作以上に物理トリックにこだわっている。正統派(?)のものあり、あまりにもあからさまで「そこまでやるなら許そう」と思ったものあり、結構感心したものあり、「何のこっちゃ」とずっこけたもの(ラスト)あり。とにかく物理トリックに対するこだわりは感じられた。

この話にはSF的設定があるのだが、そのルールにかなり飛躍があって、途中で「先に言っといてくれよ!」とツッコむことになったのがかなり難点。

どこまでも殺されて(連城三紀彦)

どこまでも殺されて (新潮文庫)

どこまでも殺されて (新潮文庫)

1990年の作品。

「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる」七度も殺され、今まさに八度めに殺されようとしているという謎の手記。そして高校教師・横田勝彦のもとには、ある男子生徒から「僕は殺されようとしています。助けて下さい」という必死のメッセージが届く。生徒たちの協力を得て、殺人の阻止と謎の解明に挑む横田。周致な伏線と驚愕の展開に彩られた本格推理長編。

7回殺されるというところから連想されるのは、同じ連城作品である「私という名の変奏曲」(1984年)。もちろん話の構造は違うのだが、意識して書かれたに違いない。

この「どこまでも殺されて」の方もアクロバット的なしかけを楽しむことはできるし、終盤ではいつものように感心させられたのだが、ちょっと小技気味。最初に提示される「謎」がそれほど底が深そうに見えなかったのが一因だと思う。それに、もっと全体のしかけが有機的に結びついていてほしかった。贅沢な要求になってしまうが。

主要登場人物の関係がじっくり描かれていないのも残念なところ。教師・横田と生徒たちの間でいつの間にか探偵団ができていたり、探偵頭・直美と横田の心理的な関係がよくわからなかったり。掘り下げてくれると迫力が増したのに、と思う。

とは言うものの、そこはやはり連城作品。独特の美しく冷ややかな文体が味わえる作品ではある。

捩れ屋敷の利鈍(森博嗣)

捩れ屋敷の利鈍 (講談社文庫)

捩れ屋敷の利鈍 (講談社文庫)

Vシリーズ第8作。

エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェ様の捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリィ

シリーズ中ではかなり異色の作品。レギュラー陣4人のうち活躍するのは保呂草潤平だけで、代わりになんとS&Mシリーズの西之園萌絵が登場する。国枝桃子も一緒に。保呂草潤平と西之園萌絵の対決(?)は見ごたえがある。両シリーズをここまで読んできた読者ならではの体験。

そして、メビウスの輪(帯)構造の建物という発想がユニーク。科学技術館などによく傾いた部屋があるが、メビウスの輪というのは考えたこともなかった。世の中には酔狂な建物を作る人がいるから、本当にあってもおかしくないが。

登場人物や建物だけではなく、焦点の当てられているところも他の作品とは異なる。密室にこだわるところは相変わらずだが、犯行の真相のうちある点については「え? それだけ?」と思った。しかしこれはわざとだと考えられる。そういう作品なのである。

この作品、夜遅くに読んでいたので、読み終わったらすぐ寝ようと思っていたのだが、最後まで読んだらどうしても気になることが出てきて(誰でもそうなると思う)、ウェブのネタバレ感想を検索してしまった(そういえば「イニシエーション・ラブ」でも同じことをしたな)。そこである仮説を知って驚愕。確かにそう仮定すると説明がつく。S&Mシリーズでも仰天させられたことがあったが、さすがは森博嗣、よく考えて作られているなあとただ感心。

吸血の家(二階堂黎人)

吸血の家 (講談社文庫)

吸血の家 (講談社文庫)

二階堂蘭子シリーズ第2作。

江戸時代から遊廓を営んでいた旧家にもたらされた殺人予告。かつて狂死した遊女の怨霊祓いの夜、果たして起きた二つの殺人事件。折しも乱舞する雪は、二十四年前の惨劇にも似て…。名探偵・二階堂蘭子が解きあかす「密室」そして「足跡なき殺人」の謎。美しき三姉妹を弄ぶ滅びの運命とは!? 本格長編推理。

複数の殺人事件のしかけはいずれもすばらしかった。「地獄の奇術師」と同じく、一発勝負ではなくいろんなトリックが組み合わさって全体が成り立っていろところが圧巻。特に足跡の謎。

ただし犯人の特定に関しては若干弱めか? ハウダニットだけでなくフーダニットでもうならせてくれるのかと終盤期待したのだが、ちょっと尻すぼみ。

旧家の血縁関係のややこしい環境で起こる殺人というのは横溝正史風テーマで、興味をそそる。しかし終わってみるとそう活かされているとは言えないか。犯人の「人格の形成」の部分にあまり真実味を感じなかったせいかもしれない。

「地獄の奇術師」の感想で「二階堂蘭子という女の子を探偵役にしたことで何か大きな効果が出ているとは今のところ思えないが、以降の作品を楽しみにすることにする」と書いたのだが、この作品では楽しみは満たされなかった。というか、二階堂蘭子には全く「萌えない」。

今まで読んだ他の作家の作品の中での女(準)探偵役、たとえば西之園萌絵、タカチ、北見志穂、はたまた碓氷優佳などに比べると、蘭子は私にとっては女の子としての魅力がゼロ。このキャラクターは意図したものだろうし、「黎人の推理をバカにする蘭子が好き!」という人もいると(自信はないが)思うから、特に文句はないのだが。

新参者(東野圭吾)

新参者

新参者

2009年刊行。文庫になってから読もうと思っていたら、PTAの図書回覧でまわってきた。買うのは文庫になってからにしよう。

日本橋。江戸の匂いも残るこの町の一角で発見された、ひとり暮らしの四十代女性の絞殺死体。「どうして、あんなにいい人が…」周囲がこう声を重ねる彼女の身に何が起きていたのか。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、事件の謎を解き明かすため、未知の土地を歩き回る。

加賀恭一郎シリーズ。全体で1つの話なのだが、9つの章それぞれに物語があり、連作短編集のような構成。2004年から5年間にわたって1章ずつ連載されている。Wikipediaによると、作者は殺人事件の全体像を決めずに書き始めたらしい。実際、捜査がなかなか進展しない部分をも楽しむ作品になっている。東京の下町の風情をベースに、前半は殺人事件とあまり関係のない短編小説として気持ちよく読める。

終盤、犯人をつきとめるロジックは正統派、とどめの話はこれぞ東野流という感じで、これまた気持ちいい。意表を突かれたり重いテーマを乗せられたりすることはあまりなく、素直に作品世界を楽しむという趣だった。

加賀恭一郎は日本橋署勤務。読者が彼に抱いているイメージに対するフェイクを本作でも見せてくれる。「なんで彼が?」と思っていたら終わりまで読んで「なるほど」。相変わらずカッコいい。「刑事の仕事は犯人を捕まえるだけではない」という加賀の信念は本作でも色濃く出てくる。

TVドラマの「新参者」の方は、録画したものを最近妻が観ていたので横目で少し観た。登場人物の構成が少し華やかになっている。あと、主要でない登場人物としてゲスト有名人が出てくる。綾戸智恵とかみのもんたとか。

人柱はミイラと出会う(石持浅海)

人柱はミイラと出会う (新潮文庫)

人柱はミイラと出会う (新潮文庫)

石持作品は文庫になったら全て読むようにしている。最近いくつか文庫になったうちの1つ。連作短編集。

【人柱】城などの難工事の際、完成を祈願し、神への生贄として生きた人を地中や水底に埋めること―留学生のリリーは、工事現場からミイラが発見されるという、奇怪な殺人事件に遭遇する。その死体から浮かび上がる、この国の信じられない風習とは…人柱に黒衣に参勤交代。江戸の風俗がいまだ息づくパラレル・ワールドの日本を舞台に、石持流ロジックが冴え渡る傑作ミステリ!

日本にある(あった)風習を元にしたバカバカしい設定の中で起こる事件、という趣向。後の方の話ほどバカバカしさが増している。設定がバカバカしくて推理の論理がしっかりしているとその落差を楽しめるのだが、設定が飛躍するとともに論理も飛躍していく感じ。しかも「証拠はないがこの推理には説得力がある」で無理やり通そうとするトーンになっている。

マイベストを選ぶとするなら、最初の表題作かな。これが一番マジメな推理になっているような気がする。あと、「黒衣は議場から消える」の導入部は笑えた。

探偵役・東郷の「人柱」という職業、いくら金をもらってもやる気がしないな。閉所に対する恐怖感はあまりないが、何ヶ月も(時には何年も!)何もすることがなく人に接することもできないというのはとても耐えられない。無人島よりも刑務所よりもつらそうである。

黒い仏(殊能将之)

黒い仏 (講談社文庫)

黒い仏 (講談社文庫)

2001年の作品。

九世紀の天台僧・円載にまつわる唐の秘宝探しと、一つの指紋も残されていない部屋で発見された身元不明死体。無関係に見える二つの事柄の接点とは? 日本シリーズに沸く福岡、その裏で跋扈する二つの力。複雑怪奇な事件の解を、名探偵・石動戯作は、導き出せるのか? 賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作。

わけがわからん。それ以外に言いようがない。

終盤、「こんなことを持ち出したからには、それを巧みに利用した前代未聞のしかけが最後に待っているに違いない」と期待しながら読んだのだが、その時点でしかけはすでに明かされていたのだった。

「前代未聞」とも「超絶技巧」とも思えなかった。「賛否両論」ではあるかもしれない。

私が彼を殺した(東野圭吾)

私が彼を殺した (講談社文庫)

私が彼を殺した (講談社文庫)

1999年の作品。長女が学校の「朝読」にこれを持って行って読んだらしい。私も読んで話のタネにすることにした。

婚約中の男性の自宅に突然現れた一人の女性。男に裏切られたことを知った彼女は服毒自殺をはかった。男は自分との関わりを隠そうとする。醜い愛憎の果て、殺人は起こった。容疑者は3人。事件の鍵は女が残した毒入りカプセルの数とその行方。加賀刑事が探りあてた真相に、読者のあなたはどこまで迫れるか。

語り手をクルクル変えて話を進めるところはさすがにうまい。東野作品独特のせつなさ・重さはそれほどない。被害者が同情の余地のあまりない人間なのが原因か。

加賀恭一郎(作中では下の名前を名乗っていなかったと思うが、加賀恭一郎のはず)が謎を解くのだが、「どちらかが彼女を殺した」と同じく、最後まで読んでも真相は書かれていない。この文庫版には袋綴じ解説がついている。先に読んだ長女は「それを読んでも犯人が全然わからん」と言っていた。

私は袋綴じ解説を読む前にしばらく考えたが、例によってわからないので読む。それでもわからない。袋綴じ解説に書かれていることの多くには見当がついていたので、あまり新しい情報はなかった。

で、これも例によって、ググって調べる。推理を載せている人が何人かいて、真相らしきものがわかった。なるほど、見逃していた。読者に答を提示していないだけあって、トリックは奇抜なものではない。途中までとんでもない人が犯人ではないかと思っていたのだが、勘ぐりすぎだった。

ポール・スローンのウミガメのスープ―水平思考推理ゲーム(ポール・スローン)

ポール・スローンのウミガメのスープ

ポール・スローンのウミガメのスープ

こういうパズル/ゲーム集があるとは知らなかった。

「水平思考推理ゲーム(Lateral Thinking Puzzles=LTP)」は、出題者の出す謎を、解答者(3人から8人くらいが適当)がさまざまな推理を働かせて解くゲームです。ほかの解答者が、ユニークな発想をするかもしれません。また自分の質問が、ほかの解答者にひらめきを与えることもあるでしょう。本書では「ヒント」が、出題者とほかの回答者の代わりを務めます。できる限り柔軟に発想し、想像力を働かせて、真実をつきとめましょう! 問題を解いたら、次はあなたが出題者になる番です。推理ゲームが好きな人を集めて、本書から出題してみましょう。勝ち負けにこだわらず、楽しい会話になるよう、解答者をうまくリードしていきましょう。

水平思考(lateral thinking)というのは、既成の枠組みの中での思考(垂直思考: vertical thinking)を離れて、いろいろな側面(横)から問題解決を図る思考方法。はてなキーワードの「ウミガメのスープとは」にも載っているが、ウミガメのスープの問題というのは次のようなもの。

男がレストランに入り、メニューから「ウミガメのスープ」を頼んだ。それを一口食べた彼はレストランを飛び出し、持っていた拳銃で自殺してしまった。
なぜだろう?

最初に与えられる情報はこれだけ。さすがにこれではわからないので、いくつかの「問答」によるヒント(各問に対する答は基本的に「はい」「いいえ」「関係ありません」の3通りだけということになっている)がついており、よーく考えると答がわかる(かもしれない)ようになっている。この問題は★4つ(最高難度)だが、もっとやさしい問題もたくさんある。

確かに普通のパズルとは毛色が違っていて、なかなか楽しい。収録されている問題には、大きく分けて

  1. すぐに答のわかる(あるいは答を知っている)問題
  2. 答に無理があると思われる問題
  3. 答になるほどと思わされる問題

があった。3.に属するものもかなりある。

とりあえず、考えてわからなかったら答を見る、という形で1人で読んでしまったのだが、紹介文にもある通り、問題を出し合ったりみんなで考えたりするのがおもしろいという。第2巻以降はそういう方法を採り入れてみるか。実際、どういう問題が解きやすいかには個人差があるようで、あとで中学生の長女が何問かやってみたら、長女に解けて私に解けない問題も、その逆もあった。