全脳自由帳

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死ねばいいのに(京極夏彦)

死ねばいいのに

死ねばいいのに

刺激的なタイトル。京極夏彦の新刊。いつも文庫になったものから読んでいるのだが、本作は電子書籍としてもリリースされた。

有名作家と大手出版社の電子書籍化取組みということでマスメディアでも採り上げられている。

講談社は20日、京極夏彦氏の新刊小説「死ねばいいのに」を、iPad向けに電子書籍としても発売すると発表した。同書は5月15日に単行本として発売されており、電子書籍iPad用のアプリとしてiTunes Storeで販売する。アプリは現在アップルに申請中で、日本でiPadが発売される5月28日以降に発売の予定。また、「電子文庫パブリ」など各種電子書籍ストアで携帯電話向けの配信も行う。
紙の単行本は1785円で販売しているが、iPad用アプリは発売から2週間はキャンペーン価格として700円、それ以降は900円と約半額で販売する。冒頭の第1章については無料配信も行う。携帯電話向けは、1章につき105円で配信する(6章構成で、第1章については無料配信)。

講談社、京極夏彦氏の新刊「死ねばいいのに」を電子書籍としてiPadでも販売 -INTERNET Watch

ちょうどiPadを買ったので、iPad版(アプリケーションの形で購入)を読むことにした。紙の方はそのうち文庫になったら買うことを考えるとして。

以下は紙の本にある(はずの)紹介文。

死んだ女のことを教えてくれないか―。無礼な男が突然現われ、私に尋ねる。私は一体、彼女の何を知っていたというのだろう。問いかけられた言葉に、暴かれる嘘、晒け出される業、浮かび上がる剥き出しの真実…。人は何のために生きるのか。この世に不思議なことなど何もない。ただ一つあるとすれば、それは―。

読み出してから、なんか新鮮な感じがするなあと思ったら、現代もの(だと思う)の京極作品を読むのは初めてだった。これまで読んだのは京極堂シリーズまたはその番外編で、全て昭和20年代が舞台だった。

「一人目」から最後の「六人目」まで、全て異なる語り手の一人称で話が展開するという趣向。かつそれらの章に共通する「お約束」があるので、最後の方はいい意味でも悪い意味でも水戸黄門的予定調和に見えてくる。あと、「自分は頭が悪い」と言っている奴が実はすごく頭がよくて深いことを語る、というのもお約束か。

あまりミステリー色のない展開だと思いながら読み進めたのだが、最後の方で一気に腑に落ちる。謎解きの要素はあまりないものの、京極作品ならではのくどい語り口と合わせて、十分楽しめるミステリーだった。

小説を読む時には一字一句ていねいにたどるので、iPadで長編を読むのはつらいかなと思っていたのだが、そうでもなかった。液晶画面で小説を読むのも十分「あり」だと感じた。ただし比較すればさすがに紙の方が読みやすくて頭に入ってきやすい。もっと分量の多い京極堂シリーズぐらいの作品だと途中で紙の本が恋しくなるかもしれない。また、液晶よりKindleのE-Ink(反射型ディスプレイ)の方が疲れないのは確か。このあたりは慣れで微妙に変わってくると思うので、電子書籍での小説読みにはまたトライしたい。