全脳自由帳

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シャム双生児の秘密(エラリー・クイーン)

シャム双生児の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 3-17)

シャム双生児の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ク 3-17)

1933年、国名シリーズ第7作。

思いもかけない山火事に追われたクイーン父子は、山頂の一軒家に辿りつき、そこで不気味な一夜を過ごした。その翌日、火事の恐怖に輪をかけるように、邸の主人が何者かの銃弾に倒れる、という惨劇が起きる。死者の手に握られていたのは、ちぎれたトランプのカード。殺人の容疑は、邸の裏手に人目を避けて匿われた異形の少年たちにふりかかった…陸の孤島を舞台にクイーンが必死の推理を展開する国名シリーズの異色作

上記紹介文にも巻末の解説にもあるように、シリーズ中の異色作である。山火事によりクローズドサークルとなる現場。クイーン父子以外の警察の手は全く入らない。

そんな中、ダイイングメッセージを中心にした、かなり一点突破的なロジック。これまでの作品で見られた、様々な要素が複雑にからみ合ったロジックと異なり、これはこれで見ごたえあり。ここまで膨らませ、反転させ、収束させられるのはさすがである。

ちょっと厳しい見方をすると、山火事の進展状況が今ひとつよくわからないので緊迫感があるようでないようであり、エラリイの推理がなかなかゴールにたどり着かないのは予定調和的にも見える。かつ、山火事がなければ真相を示せなかったのではないかという印象も持ってしまう。

タイトルが指す対象(この作品ではシャム双生児)が実際に出てくるのは、このシリーズでは「アメリカ銃の秘密」に続いて2作目か。「暗黒館の殺人」(綾辻行人)にもシャム双生児が登場したが、この作品へのオマージュの意味合いもあるんだろうな。あの双子も屈託がなかった。