- 作者: 石持浅海
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/09/08
- メディア: 文庫
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ミステリーにおける最大の謎は、人の心の奥深くにある―。警視庁の大迫警視が、あのハイジャック事件で知り合った「座間味くん」と酒を酌み交わすとき、終わったはずの事件は、がらりとその様相を変える。切れ味抜群の推理を見せる安楽椅子探偵もの六編に、「月の扉」事件の十一年後の決着を描いた佳編「再会」を加えた、石持ミステリーの魅力が溢れる連作短編集!
「月の扉」で活躍した「座間味くん」(本名不明)の安楽椅子探偵的推理が冴える短編集。「月の扉」を読んでから読んだ方がいいと思うが、「月の扉」よりおもしろかった。警察でいったん結論を出した事件を改めて推理する、というハードルの高い設定を見事クリアしている。しかもどの短編にも社会派的テーマが設定されていて、「顔のない敵」(対人地雷がテーマの短編集)にも通じる統一感あり。
- 貧者の軍隊
テロリストグループ。真正面からの密室ものであるのが好感が持てる。ロジックもしっかりしていてよし。 - 心臓と左手
新興宗教団体。猟奇性のうまい使い方と意外性とでマイベスト。 - 罠の名前
過激派組織。警察の捜査の盲点をうまく突いている。それにしてもタイトルの意味が気になる。(1)罠のタイプの名前(何という罠なのかわからないが)が何かを暗示する (2)罠に登場人物の名前を当てはめる (3)何かもっと抽象的な名詞(ストーリーから浮かび上がるもの)が罠の名前になる といろいろ考えてみたが、よくわからない。 - 水際で防ぐ
環境保護団体。最後のセリフは気が利いているのだが、それを言わせるために無理やり作った面があるなという感想を持つのはちょっと意地悪か。 - 地下のビール工場
貿易会社。推理を聞いた大迫警視の驚愕は最大級。その分、過去の警察の対応がちょっと頼りなく見えるのはしょうがないところ。 - 沖縄心中
反戦団体。警察の結論でも、座間味くんの推理でも、どっちも動機が不自然な印象。 - 再会
「月の扉」のその後のストーリーということで楽しみにしていたのだが、話の展開にも座間味くんの披露する論理にもちょっとついて行けなかった。全体として(一応)前向きな話だったのが救いか。
石持作品(長編・短編集とも)に対してよく持つ感想は「最後が余計」。この短編集でも、「再会」はビシッと締める役割を果たしているのかどうか疑問。