- 作者: 麻耶雄嵩
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/08
- メディア: 文庫
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ウラジオストクからモスクワへ向かうシベリア急行。その車内で作家・桐原剛造が殺された。死亡推定時刻、同乗者達には食堂車で夕食中というアリバイが。密室殺人から奇妙奇天烈な不可能犯罪まで、銘探偵・メルカトル鮎と推理作家・美袋三条が空前絶後の推理力で事件の真相を看破する! 新本格推理傑作集。
つぶぞろいの、質の高い短編集だった。どの作品にも工夫が凝らされている。「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」の崩壊感、「小人輭居為不善」の極悪安楽椅子探偵度、「ノスタルジア」の意地悪さ、「シベリア急行西へ」の本格らしい推理。
作者自身も、長編「木製の王子」を出した時のインタビューで以下のように語っている。
――先ず最初に伺います。最新作『木製の王子』を除くご自身の著作の中で、一番気に入っているのはどの作品でしょうか?
麻耶雄嵩先生インタヴュー
麻耶 除かなくても同じですが、短編集(註・『メルカトルと美袋のための殺人』)が一番気に入っています。長編だと一〇〇%完全に上手くいったっていうことがないんです。いつも大体やりたいことの四割から六割ぐらいしか。短編だとそういうことがあまりないので、その意味で、ある程度満足度の高い短編集が一番いいですね。
ただしメルカトル鮎の冷酷さ、意地の悪さは筋金入りなので、「翼ある闇―メルカトル鮎最後の事件」をはじめとする長編(メルカトル鮎が出てこないものでもよい)をいくつか読んで、麻耶作品の「救いのなさ」になじんでからこの短編集に臨んだ方がいいかもしれない。いや、逆か。この短編集で先に慣れておいた方がいいのかな。ただ「翼ある闇」を先に読んでいると、メルカトル鮎に対する印象は確実に変わるのだが。