T型フォード殺人事件―広瀬正・小説全集〈5〉 (集英社文庫)
- 作者: 広瀬正
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/11
- メディア: 文庫
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昭和モダン華やかなりし頃、その惨劇は起きた―。関西のハイカラな医師邸に納車された最先端の自動車「T型フォード」。しかし、ある日、完全にロックされたその車内から他殺死体が発見されたのだ。そして46年後、この車を買取った富豪宅に男女7人が集まり、密室殺人の謎に迫ろうとするが…。半世紀を経てあきらかになる事件の真相とは? 著者会心の傑作ミステリ中編ほか2編を収録。
「T型フォード殺人事件」は遺作(1972年)。殺人のトリックはすぐわかったし、話の構図も単純なのでおかしいなと思っていたら...。これはおもしろい。SF的な設定は特になく、ちゃんとした本格推理小説である。大正末期・昭和初期がからんでくるのは広瀬正らしいところ。
短編「殺そうとした」はデビュー作(1961年)。これも推理小説風。少ない伏線で一気に結末へなだれ込む。うまい構成に意表を突かれた。
「立体交差」は得意の時間旅行もの。書かれた当時「未来」だった1984年のできごとについては、当たっていることもあればはずれていることもある。基本的には時代がSF的に大きく変わっているという想定で書かれているので、はずれていることの方が多い。特に1つ、非常にバチ当たりなはずれがあるのはおもしろかった。結末は独特の味わいがあってとてもよい。