全脳自由帳

より考えるために書く

月は幽咽のデバイス(森博嗣)

月は幽咽のデバイス (講談社文庫)

月は幽咽のデバイス (講談社文庫)

Vシリーズ第3作。

薔薇屋敷あるいは月夜邸と呼ばれるその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティの最中、衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは!?

Vシリーズの作品はS&Mシリーズの同じ番号の作品と対応しているという話を聞いたことがある。「黒猫の三角」が「すべてがFになる」に、「人形式モナリザ」が「冷たい密室と博士たち」に対応しているというのは今ひとつピンとこなかったのだが、この作品が「笑わない数学者」に対応しているというのはよくわかった。

この仕掛けは見破れないぞ。一方、明かされた時の満足感はそれほどでもない。また建物(篠塚邸)の構造がややこしく、空間把握能力の乏しい私には見取り図のようなものがないと厳しかった。大学で建築関係の助教授だっただけあって、森博嗣の小説にはそういうのが多い。

「真相が解明されるプロセスに力点を置いているのではなくて、描きたかったことは他にある」という点はVシリーズ前2作と共通している。しかし「描きたかったこと」のインパクトは「笑わない数学者」に及ばないと思う。逆に、本筋と関係のない理屈っぽくてしゃれた会話の切れ味は増している。

レギュラー陣のキャラクター設定は継続しているので、前の作品での彼らのふるまいを覚えておいて臨んだ方がよさそうである。「人形式モナリザ」で保呂草潤平がどんな役まわりだったかを忘れていたので、この作品で改めて気づかされることになった。