全脳自由帳

より考えるために書く

双頭の悪魔(有栖川有栖)

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

「学生アリス」シリーズ第3作。Amazonの紹介文より。

他人を寄せつけず奥深い山で芸術家たちが創作に没頭する木更村に迷い込んだまま、マリアが戻ってこない。救援に向かった英都大学推理研の一行は、大雨のなか木更村への潜入を図る。江神二郎は接触に成功するが、ほどなく橋が濁流に呑まれて交通が途絶。川の両側に分断された木更村の江神・マリアと夏森村のアリスたち、双方が殺人事件に巻き込まれ、各々の真相究明が始まる…。

有栖川有栖の最高傑作と推す人の多い作品。となれば読むしかないのだが、文庫本で700ページ近くある分量におそれをなしてしばらく手をつけていなかった。しかし読み始めるとあっという間。すばらしい小説だった。

マリアとアリスのほぼ交互の語りで話が進む。木更村の芸術家たちの描写をはじめとして、しっかりとした話づくりになっていて、間延びすることもなくストーリーに乗せられる。マリアは「家出」をして家族を心配させるにもかかわらず、ますます好感が持てる。1箇所、大笑いさせられたところがあった。要はダジャレなのだが、マリアの語りの中だったので余計に笑える。

月光ゲーム」「孤島パズル」より話のスケールが大きい。いつものごとく、あくまでロジックで迫る。これぞ推理小説の醍醐味。名探偵・江神二郎は相変わらず謙虚におずおずと真相を究明していく。そして犯人当ての「読者への挑戦」が3回。私は2回目だけ犯人を特定できた(トリックの詳細まではわからなかった)。最後はこのシリーズに共通するすがすがしい読後感が残る。

昨年、15年ぶりのシリーズ新作「女王国の城」が出た。本当は文庫になってから入手したいのだが、それまで待てそうにない。