- 作者: 泡坂妻夫
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1999/07
- メディア: 文庫
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「わたし、本当に今幸せなのよ。これ以上、何もいらないの。早馬さんだけがいればいいの」―映画スター・北岡早馬との結婚で伊津子は幸せの絶頂にあった。しかし彼女を迎え入れた北岡家の人々は皆、早馬の先妻・貴緒のことが忘れられぬ様子であり、最愛の夫もその例外ではなかったのだ。謎の自殺を遂げたという貴緒の面影が色濃く残る邸で、やがて悲劇の幕が切って落とされる…。技巧の限りを尽くした本格ミステリー。
期待した通り、泡坂ミステリー独特の妖しい雰囲気の中で物語は進む。特に「この世のものではないほど美しい人だった」という早馬の亡妻・貴緒の影が妖しさを彩る。まわりが遠慮会釈もなく貴緒を礼賛する環境で、新妻・伊津子の身に何が起こるのか。波乱の末に幸せになるのか、それとも最後に悲劇が待っているのか。終章の前の五章「花嫁の叫び」はどういう「叫び」なのか...。
そんなことをずっと考えながら読み進めると、その五章で唖然とさせられた。これだけ驚かされたのは久しぶり。巧妙に張りめぐらされた伏線と計算された演出は期待以上である。
この作品の設定は、ヒッチコックにより映画化された「レベッカ」(原作: ダフネ・デュ・モーリア)をベースにしているということを読後に知った。これを観るか読むかしていたらさらに楽しめたかもしれない。
ちょうど昨日、sakatamさんの「花嫁のさけび」感想が更新(改稿)されていた。ここでの解説がすばらしい。加えてネタバレ感想(当然、本作をすでに読んだ人向け)での分析はさすが。「なるほど、そういう技巧がこらされていたのか」と改めて膝を打った。
泡坂妻夫はこれで6作読んだが、全てよかった。それなのに絶版になっているものが多いのは本当に残念。亡くなられたのを契機にといっては何だが、天藤真や広瀬正のような復刊の動きがあってほしいものである。