全脳自由帳

より考えるために書く

りら荘事件(鮎川哲也)

りら荘事件 (創元推理文庫)

りら荘事件 (創元推理文庫)

鮎川哲也の代表作の1つ。Amazonの紹介文より。

残り少ない暑中休暇を過ごすべく、秩父の『りら荘』に集まった日本芸術大学の学生たち。一癖も二癖もある個性派揃いである上に各様の愛憎が渦巻き、どことなく波瀾含みの空気が流れていた。一夜明けて、りら荘を訪れた刑事がある男の死を告げる。屍体の傍らにはスペードのA。対岸の火事と思えたのも束の間、火の粉はりら荘の滞在客に飛んで燃えさかり、カードの数字が大きくなるにつれ犠牲者は増えていく。進退窮まった当局の要請に応じた星影龍三の幕引きや如何?贅を尽くしたトリックと絶妙な叙述に彩られた、純然たるフーダニットの興趣。本格ミステリの巨匠鮎川哲也渾身の逸品。

学生が旅行に来ているだけなのに、とにかく人がよく死ぬ。ちょっとロジックに無理があるのではと思うところもあったが、トリックは複雑、かつ謎解きは簡明。これぞ推理小説という感じ。その点ではすばらしい。

ただ人間ドラマとしては、登場人物の人となりや関係・心の動きの描写があまりにもサラッとしていて、紹介文のいうところの「一癖も二癖もある個性派揃い」とか「各様の愛憎」というのが今ひとつ実感できなかった。昔の推理小説というのはこんなものなのかな、と十把ひとからげにしたくなる。探偵・星影龍三も途中で突然登場して推理を始めるので、この人に感情移入することができない。

それともう1つ、警察の対応が間抜けすぎる。何の役にも立たず右往左往するばかり。ちょっと描き方が極端だと思う。