- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1994/03/27
- メディア: 文庫
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どの一編もごく日常的な観察の中から、不可解な謎が見出される。本格推理小説が謎と論理の小説であるとするなら、殺人やことさらな事件が起こらなくとも、立派に作品は書ける。勿論、これは凡百の手の容易になし得るものではないが。北村氏の作品は読後に爽やかな印象が残り、はなはだ快い。それは、主人公の女子大生や円紫師匠の、人を見る目の暖かさによるのだろう。 鮎川哲也
女子大生の「私」と落語家の春桜亭円紫が遭遇する「日常に潜む謎」とその解き明かし。推理小説だが殺人は起こらない(といってもかなり深刻な話もあるのだが)。「織部の霊」「砂糖合戦」「胡桃の中の鳥」「赤頭巾」「空飛ぶ馬」の5編。
なるほど、こういう推理小説もあるのかと思った。この人から加納朋子らへ続く流れがあるというのもわかる気がする(どちらもまだ1冊しか読んでないけど)。しかしこの短編集は私にはどうも肌が合わなかった。
殺人ほどにはインパクトのないできごとを扱うとなると、どういう謎を登場させるかについて必ずある種の「こだわり」が存在する。その「こだわり方」が合わなかったということかもしれない。あるいは物語の「暖かさ」や文体のやわらかさがちょっとくすぐったいせいか。あと、円紫師匠があまりにも千里眼すぎて、真相の解明があっけない。その割には「胡桃の中の鳥」のように、謎と関係ないくだりが長すぎて最後に「その謎解きのために延々引っ張ってたのか!」と思うことがあったりする。
...とケチはつけられるのだが、よくできていて暖かい話ばかりなので、肌が合ったらファンになってしまいそうな作品群である。マイベストを挙げるとするなら「砂糖合戦」かな。