米中毒別館

思いついたことをこまごまと。本の感想なども。

炎の背景(天藤真)

天藤真を読むのはもう8冊目。1976年の第6長編。この本は残念ながら絶版になっている。Amazonマーケットプレイスで6000円以上(送料・手数料込み)の値段がついてしまい、リアル古本屋でも見つからないのでどうしようかと思っていたのだが、ネットの古本サイトをモニタリングし続けていたら460円で入手できた。

新宿歌舞伎町で酔いつぶれた「おっぺ」こと小川兵介は、見馴れぬ場所で目を覚ました。傍らには初対面の通称ピンクルと、もうひとり恰幅のいい中年男。何故かしら男の脇腹には深々とナイフが刺さり、とうの昔に冥途へいらしたご様子だ。山荘の屋根裏に閉じ込められている状況下、前夜の記憶を手繰りラジオのニュースを聴くに及んで、抜き差しならない罠に落ちたのだと悟るおっぺんとピンクル。突如爆発した山荘を命からがら脱出した二人は、度重なる危難を智恵と勇気と運の強さで凌ぎながら、事件の真相に迫ろうとするが…。青春小説の清々しさを具えた、息もつかせぬサスペンスの逸品。

単純な逃亡譚なのかなと思いながら読んでいたのだが、ちゃんと謎解きの要素も入っていた。逃亡の過程も、ただ逃げているだけでありながら迫力がある。思想団体がからんでくるところは時代を感じさせる。

独特の文体は健在。特にこの作品では登場人物のちょっともってまわった独特の言い方が他の作品よりも頻繁に出てきて、アクの強いセリフまわしになっている。

そして、天藤作品はいつもラストが印象的。この作品の終わり方も、途中で想像していたものとは違って気が利いていた。

全体として話のしくみは複雑なものではなく、大きく感心させられるところがそれほどあるわけでもないが、長い逃亡劇から謎解き、ラストまで、天藤節を堪能できる作品。