妖女のねむり(泡坂妻夫)

妖女のねむり (新潮文庫)

先月、泡坂妻夫が亡くなった。追悼の意味を込めて、本棚に放置してあった泡坂作品を手にとる。

樋口一葉の謎の遺稿を追って上諏訪へと急ぐ真一の前に現れた妖しい美少女麻芸。奇妙な既視感にとまどう彼に、世にも不思議な運命が告げられた。二人は、時を超え、場所をかえては生まれかわり、ついに結ばれることなく死んでいった恋人たちの末裔なのだと…迫り来る死を前に、失われた過去を辿る旅が始まる。遺稿の謎は? 麻芸の正体は? 恐怖と幻想に満ちたミステリー・ロマン。

泡坂氏はマジシャンでもある。マジックとミステリー小説の大きな違いの1つは「種明かしがあるかどうか」である。この作品は輪廻転生という大仰なテーマを扱っているので、少なくとも部分的には謎は謎として解明されないまま余韻を残しつつ終わるのかなと思いながら読んでいくと、そうではなかった。種もしかけもきわめて周到で、種明かしは実に鮮やか。謎の大きさに見合う真相解明の緻密さを持った傑作だと思う。

泡坂作品を読むのは5作目だが、とにかくはずれがない。どれを読んでもユニークな趣向と独特の妖しい雰囲気と明快な謎解きとを味わうことができる。まだまだ他のも読んで楽しませてもらうことにしよう。合掌。