全脳自由帳

より考えるために書く

パラレルワールド・ラブストーリー(東野圭吾)

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)

1995年の作品。すでに「本格推理」でないミステリーを多く書くようになっていた頃。

親友の恋人は、かつて自分が一目惚れした女性だった。嫉妬に苦しむ敦賀崇史。ところがある日の朝、目を覚ますと、彼女は自分の恋人として隣にいた。混乱する崇史。どちらが現実なのか? ――存在する二つの「世界」と、消えない二つの「記憶」。交わることのない世界の中で、恋と友情は翻弄されていく。

まずなんといっても最初のシーンが印象的。毎週火曜日、崇史が乗る山手線に並行して走る京浜東北線の同じ車両・同じ場所にいつも立っている女性。2つの電車は決して交わることがなく、離れていく。

そのあとの展開は「パラレルワールド」そのもの。一方は崇史の一人称で、他方は三人称(作者の視点)で、交互に描かれる。これら2つの状況は全く矛盾している。どういうことなのか? 混乱するのは読者の方で、2つの「崇史」はそれほど混乱していない様子(そういう意味では、背表紙にある上の紹介文は正しくない)。

話はパラレルのままずっと続いていく。そして明らかになる真相。最後はこれでよかったのか? 自分とは何なのか? 読者に問題が提出されたまま終わる。

この話には「悪人」が出てこない。みんな真面目で一生懸命である。謎解きの大きな鍵を握っている親友・三輪智彦の心情は直接描かれることがなく、読者の想像に委ねられる。この手法には「白夜行」と似たものを感じた。

タイトルにどうも違和感があるなと思ってよく考えたら、他の東野作品に比べて異様に長いのである。得意の漢字2文字タイトルにするなら「記憶」かな。しかしそれだとパラレルの意味が込められないか。と思いながらパラパラめくっていると、作品のタイトルの代わりに各章のタイトルのほとんどが漢字2文字(「喪失」「矛盾」「混乱」など)であることに気がついた。