全脳自由帳

より考えるために書く

五声のリチェルカーレ(深水黎一郎)

五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)

五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)

 

今年に入ってから読みだした深水黎一郎の作風がすっかり気に入っている。論理的でわかりやすくてウンチクの多いのが好きなのである(他には森博嗣とか京極夏彦)。

これは2010年の作品。

昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも―。少年の回想と森本の調査に秘められた〈真相〉は、最後まで誰にも見破れない。技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。

この作品の「謎」はどこにあるのか。素直に読んでいるとその「焦点」についてミスリードされる。他の作品でもそうだが、この人は読者との「対決」のしかたを工夫している。しかけがわかったと思っていたら、ちゃんとわかってはいなかったのだった。スッキリした読後感ではないが、作者の企みにうならされる。

そして、相変わらずウンチクが深くて気持ちがいい。今回は虫とバッハである。

併録の「シンリガクの実験」、こういう話は好きである。学校で暗躍する主人公の活動、そして真相と結末。こちらは結構スッキリした。