全脳自由帳

より考えるために書く

あした天気にしておくれ(岡嶋二人)

あした天気にしておくれ (講談社文庫)

あした天気にしておくれ (講談社文庫)

1981年に江戸川乱歩賞の候補となり(落選)、1983年に本になった作品。

競馬界を舞台にしたミステリーの最高傑作。北海道で三億二千万円のサラブレッド「セシア」が盗まれた。脅迫状が届き、「我々はセシアを誘拐した」で始まる文面は、身代金として二億円を要求してきていた。衆人環視のなかで、思いもかけぬ見事な方法で大金が奪われる。鮮やかなトリックが冴える長編会心作。

うわさにたがわぬ傑作だった。岡嶋作品初期の「競馬三部作」の中でも、乱歩賞をとった「焦茶色のパステル」をしのぐと思う。トリックは秀逸だし、そこへの持って行き方もうまい。真相の意外性も十分。かつ余分な展開(妙なラブロマンスとか)のない、研ぎ澄まされたストーリーだった。

さすがは「人さらいの岡嶋」と言われるだけあって、誘拐事件(この作品は「人」さらいではないが)の扱いが巧妙。誘拐もので焦点となることが多い「身代金の受け渡し」に関する展開にはうならされたし、事件は誘拐にとどまらない構造に発展する。

そして、競馬というテーマが活きている。私は単勝や連勝複式(当時の連勝複式は今でいうところの枠連に対応)の意味がやっとわかる程度なのだが、苦もなく話に入り込むことができた。

この作品が乱歩賞をとれなかった原因とも言われている、当時の選者からの2つの指摘について、作者が「あとがき」で書いている。2つのうち「トリックが実行不可能」という指摘については、実は可能だったということだと理解。

もう1つは「メイントリックに先例があった」という指摘。私はこういうトリックは大好きなので、アイデア自体が初出でないというのには若干ガッカリしたのだが、「あとがき」にある通り、大事なのはそれが話の中でどんな使われ方をしているのかだと思う。傑作だという感想には変わりがない。