- 作者: 柄刀一
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/04/10
- メディア: 文庫
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とっくに死んだはずの人物の遺伝子が、殺人事件現場から発見されたら!? 遺伝子治療や体細胞移植を手がける最先端医療企業SOMONグループ。その中枢を担う宗門家で、顔と手足が焼かれた女性の死体が発見された。現場のDNA鑑定が示したのは、“死者の甦り”という肯きがたい事実だった―。
読者を謎の迷宮へ誘う本格推理の真骨頂!
「トータル感」の味わえる作品だった。事件における遺伝子科学上の「大きな謎」についてはちょっと作為的なものを感じたし、いずれも途中で真相の予想がついたのだが、それらを胎児遺伝子診断という社会テーマや日本的「家」の問題、そして殺人事件の動機にからめているところは秀逸。
胎児遺伝子診断というのは、妊娠中に胎児の遺伝子を分析し、産むかどうかを親が選択するというもの。2015年という設定にも表れているように、こういうことが倫理的に問題になってくるのはそう遠い未来の話ではないように思える。
さらに密室をはじめとする殺人のトリックが組み合わさっている。この作品は解決編に相当する部分がかなり長いのだが、それに十分値する構成だった。
よくわからないのは「ifの迷宮」というこのタイトル。代わりにつけるとしたらどんなタイトルがいいかなと思って考えていたら、「DNA殺人事件」というベタなものが浮かんできたのでそこでやめた。
あと中盤までは、科学的な内容がというより論理的に結構話が難しく、どうも理解できないところがいくつかあったので、再読する時のためにもメモしておく(ページ番号は文庫版でのもの)。
(P119)
「(略)それに、死体を持ち去った八木と小山内が共犯関係になければ、死体発見時の小山内の証言は意外な形で裏付けられることになり、小山内犯人説は状況的にかなり不自然になる」
(ここだけ取り出して引用しても意味不明だと思うが)「意外な形で裏付けられる」ってどういうことかわからない。
(P147 一部伏字にする)
遺伝子鑑定用のサンプルとして提出させた○○の遺髪に焦点を絞って考えても、不死を思わせる謎が残るのは同じだった。あの遺髪が別人Aのものであったとしても、それは□□ということになるが、別人Aはすでに死亡していなければならないのだから。
(これもここだけ取り出して議論はできないが)「死亡していなければならない」というロジックがよくわからない。それ以前のもっと根本的なところで謎が提示されているので。
ここまで2つは私の理解力不足かもしれないのだが...。
(P380〜1)
応接室の百合絵は、関係者のアリバイのほうに頭を切り換えていた。
戸田郁恵はあの日、徹也と共に午前八時に家を出ていた。塩山とは県内の反対に位置する六郷まで出かけたのだ。(略)
(略)二人が宗門家に戻ってきたのは午後五時半といったところだ。
(略)カスミが帰宅したのは午後四時頃で、この時は、一臣や戸田郁恵と顔を合わせている。
カスミが午後四時頃に宗門家に帰宅した時に、午後五時半まで帰宅しなかった戸田郁恵と顔を合わせたはずはないと思うのだが。ここは各人のアリバイを記述しているところなので気になる。