全脳自由帳

より考えるために書く

魔球(東野圭吾)

魔球 (講談社文庫)

魔球 (講談社文庫)

1984年に江戸川乱歩賞に応募、最終候補に残ったが落選し、1988年に単行本化された作品。江戸川乱歩賞は1985年に「放課後」で受賞している。

九回裏二死満塁、春の選抜高校野球大会、開陽高校のエース須田武志は、最後に揺れて落ちる“魔球”を投げた! すべてはこの一球に込められていた…捕手北岡明は大会後まもなく、愛犬と共に刺殺体で発見された。野球部の部員たちは疑心暗鬼に駆られた。高校生活最後の暗転と永遠の純情を描いた青春推理。

舞台は昭和39年。私が生まれた年である。この作品には、そのあたりの時代に設定しなければならない理由がある。調べてみると、どうやら昭和40年ではダメだったようである。タイトルや時代背景からちばてつやの「ちかいの魔球」のことをちょっと思い出した。

主人公である須田武志の気持ちが直接描かれるのは「序章」だけで、あとは一貫して外からの描写のみがなされる。途中までは五里霧中の殺人事件。その真相が明らかになるに従い、「魔球」というタイトルとは対照的な、彼のまっすぐな生き方が浮かび上がってくる。

読み進むうちに主人公に入れ込まされ、最後にはせつなさが残る。今につながる東野流が「放課後」よりもよく出た佳作だと思う。