全脳自由帳

より考えるために書く

クラリネット症候群(乾くるみ)

クラリネット症候群 (徳間文庫)

クラリネット症候群 (徳間文庫)

2つの中編が収録されている。

  • マリオネット症候群
    人格転移もの。「転校生もの」とも言うのかな。しかし移ってきた人格と元いた人格とが同じ体にいる(両者の間にコミュニケーションはなく、元いた方はただ見守るのみ)ところがミソ。中盤の展開にはかなり驚いた。終盤は予想できたが。
    この深刻な事態の中で、登場する人たちの能天気さがいい味を出している。
  • クラリネット症候群
    「ドとレとミとファとソとラとシの音が聞こえない」という奇想天外な症状。歯抜けになった会話を読むのは楽しかった。結構わかるものである。どうでもいいことだが、自然な会話の中で(わざと言っているところ以外で)「ファ」が消えるところを読みたかったな...と思って念のために読み直してみたら1ヶ所あった。
    もう1つの趣向として暗号が出てくるのだが、こっちはちょっとがっかり。

今までに読んだこの人の作品には必ず「底意地の悪い人」が存在する。「みんないい人ばかりなのにどうして...」という話にはならない。しかし後味が悪くないのは、展開のうまさと文体のなせる業か。