全脳自由帳

より考えるために書く

鳴風荘事件―殺人方程式II(綾辻行人)

鳴風荘事件―殺人方程式〈2〉 (光文社文庫)

鳴風荘事件―殺人方程式〈2〉 (光文社文庫)

久しぶりに綾辻作品を読む。読み始めるとすぐに独特の空気が醸し出されてくる。やはり文章に個性があるのだと思う。おまけに鳴風荘という建物が舞台なので、館シリーズのような趣もある。

六年半前の月蝕の夜、美島夕海の姉・紗月が惨殺された!
――夫の明日香井叶ではなく、双子の兄・響を伴い、鳴風荘を訪れた深雪。再会した友人たちの中には、死んだ姉そっくりに変貌した夕海の姿が…。その夜、再び不可解な殺人事件が勃発する! 犯人は何故、死体の髪を切って持ち去ったのか!?
著者が初めて「読者への挑戦」を付した長編本格推理の傑作!

綾辻作品には珍しく(?)ロジック主体で迫る「殺人方程式」シリーズ。この作品では「読者への挑戦状」に相当するものがはさまれる。「こんなもの、わかるわけない」と思ってすぐに解決編を読む。紆余曲折の末に様々な伏線がきれいに回収されて気持ちがよかった。前作に少し感じた荒唐無稽さも薄くなってすっきりしている。

細かいことを言うと、これは「方程式」という感じはしないな。計算式に相当するものは出てくるが。それと、この作品には「ある種の人々」が複数出てくるのだが、推理小説にはこれが多いなと思うのは私だけだろうか。その人々について明日香井響の言う「偏見を持っているつもりはないが、そうでないのがノーマルだという規範はきっと根深く内面化されているのだろう」というのはその通りだと思う。

これでどうやら綾辻作品のうち本格推理もの(ホラーものや「囁き」シリーズ以外)は読み終えてしまったようである。この作品の「文庫版あとがき」(1999年1月)で「(明日香井兄弟シリーズは)少なくともあと一つは続編を書く心づもりでおります」と書いているが、それから10年経ってしまったではないか。館シリーズの次回作が出るという話もトンと聞かないし。もっと読みたいのでもっと書いてほしい。