全脳自由帳

より考えるために書く

女王国の城(有栖川有栖)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

女王国の城 (創元クライム・クラブ)

「学生アリス」シリーズ第4作。前作「双頭の悪魔」から実に15年後、2007年の作品。

舞台は、急成長の途上にある宗教団体<人類協会>の聖地、神倉。大学に顔を見せない部長を案じて、推理小説研究会の後輩アリスは江神二郎の下宿を訪れる。室内には神倉へ向かったと思しき痕跡。様子を見に行こうと考えたアリスにマリアが、そして就職活動中の望月、織田も同調、四人はレンタカーを駆って木曾路をひた走る。<城>と呼ばれる総本部で江神の安否は確認したものの、思いがけず殺人事件に直面。外界との接触を阻まれ囚われの身となった一行は決死の脱出と真相究明を試みるが、その間にも事件は続発し…。江神シリーズ待望の書き下ろし第四長編。

早く読みたかったが文庫が出るまで待つことにしていた。3年ほど待ったところで、このシリーズのこれまでの作品はハードカバー発行から文庫化までが通常(3年ぐらい)よりずっと長い(5〜7年)ことに気づいた。「こりゃまだまだ文庫は出ないな」と思ってハードカバーを購入した。その直後に文庫化されてあんぐり。まあいいか。

まずは宗教団体の聖地という舞台の特殊さが目につくのだが、よく考えたらこのシリーズは、火山の噴火変な形の島芸術家の村と、かなり特殊な舞台で統一されているのだった。しかし、宗教団体の協会員という(私には)なじみのない人種が相手であるせいか、全体を覆っている雰囲気は前3作よりも現実感が希薄というかドライな感じがした。淡々と物語が進行していく印象。

他に変化したところといえば、背景となっている時代が前3作よりかなり進んでいる(それでも刊行された2007年よりは明らかにだいぶ前)ことと、それにつられてか、文体も少し大人っぽく(というより理屈っぽく?)なったことか。この文体は決してきらいではない。「青春度」は、少し大人になりながらも増した感じかな。甘酸っぱい。

事件のからくりは見事。さすがはクイーンの流れを汲む正統派である。江神二郎による解決も細かいところまで緻密に検討されていて、いつものように見ごたえがある。からくりに難を言うなら、相手が宗教団体であることがなんか活かされていないなと思うところがあったことか。うまく活かされていてなるほどと思ったところもあっただけに。

「学生アリスにはずれなし」というのは本作でも崩れなかった(作家アリスでは成り立たないが…)。作者によるとこのシリーズは長編5作で完結するそうなので、いつになるかわからない最終作を気長に待ちたい。