全脳自由帳

より考えるために書く

鴉(麻耶雄嵩)

鴉 (幻冬舎文庫)

鴉 (幻冬舎文庫)

1999年の作品。麻耶雄嵩の長編の中でも評判が高い。

弟・襾鈴(あべる)の失踪と死の謎を追って地図にない異郷の村に潜入した兄・珂允(かいん)。襲いかかる鴉の大群。四つの祭りと薪能。蔵の奥の人形。錬金術。嫉妬と憎悪と偽善。五行思想。足跡なき連続殺害現場。盲点衝く大トリック。支配者・大鏡の正体。再び襲う鴉。そしてメルカトル鮎が導く逆転と驚愕の大結末。一九九七年のNo.1ミステリに輝く神話的最高傑作!

閉ざされた村が舞台。昔はあったのかもしれないが、一応現代という設定(だと思う)ではかなり異様。ローカルかつ絶対的な宗教、人を襲う鴉、そして登場人物の名前の特異さまでもが舞台効果の役割を果たしている(名前に関してはそれだけの意味ではないようだが。関係ないけど、「橘花」は普通女の子だと思うぞ)。

この話の中でメルカトル鮎が一体どんな役割を担うのか、全く想像がつかなかったし、彼の出番はあまり多くないのだが、終盤になって唖然とさせられた。「銘探偵」の面目躍如。

麻耶作品ならではの、なんともいえず救いようのない世界が味わえる作品であることは確かである。「夏と冬の奏鳴曲」の「いったい何なのだ...」感には及ばなかったが。

真相究明のロジックは精密というよりは大技の趣だと思ったが、読み返してみるとよく考えられていることがわかった。謎は依然としていろいろと残るのだが、きれいにトリックに乗せられたところもあり。しかし主要トリックの1つには難癖をつけたくなる。普通の人よりこの村人たちに近い(何のことかは秘す)私としては...。実際にはこんなことにはならないと思うのである。