米中毒別館

思いついたことをこまごまと。本の感想なども。

変身(東野圭吾)

変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)

1993年の作品。

平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしようもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された脳の持主(ドナー)の正体を突き止める。

パラレルワールド・ラブストーリー」の解説で新井素子は、この「変身」と「分身」「パラレル...」の3作を「東野“私”三部作」と名づけていた。「“自分”三部作」と言ってもいいと思う。いずれも「私とは何か、自分とは何か」(英語で言えばidentity)を問う作品。

そのうち、本作と「パラレル...」とは脳をターゲットとしている点で共通しているが、そのアプローチは正反対。本作では性格が変わっていくという設定。「アルジャーノンに花束を」を連想する人も多いかも。

一般に「脳のことはまだほとんどわかっていない」というコンセンサスがなんとなくあるので、脳を扱った小説は何でも書けてしまうというイメージがある。本作はそれにちょっと乗りすぎた感あり。といってもさすがは東野氏の筆力で、どんどん読まされてしまうのだが。

結末は東野流のひねりがちょっと足りなかった印象。「この人、一体何だったのか?」という登場人物もいて、読後の余韻という点では「三部作」の他2作の方が上かな。本作も最後の最後にはせつない気持ちにさせてくれたが。