米中毒別館

思いついたことをこまごまと。本の感想なども。

悪魔が来りて笛を吹く(横溝正史)

昔の横溝正史ブームを経験した人なら少なくともタイトルだけは知っている作品。元は1951年から雑誌に連載されている。「天銀堂事件」というのは帝銀事件(1948年)を意識したもの。

世の中を震撼させた青酸カリ毒殺の天銀堂事件。その事件の容疑者とされていた椿元子爵が姿を消した。「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」という遺書を娘美禰子に残して。以来、どこからともなく聞こえる“悪魔が来りて笛を吹く”というフルート曲の音色とともに、椿家を襲う七つの「死」。
華族の没落と頽廃を背景にしたある怨念が惨劇へと導いていく―。名作中の名作と呼び声の高い、横溝正史の代表作!!

トリック自体はそれほどのものではないと思うのだが、話としての演出が巧みである。横溝作品によく出てくるややこしい血縁関係をベースに、旧華族のプライドやそうでない人たちの思惑をからめてうまく処理されている。「悪魔が来りて笛を吹く」というのがフルートの曲だとは知らなかった。イメージとして雅楽の笛だと思っていた。この曲も演出として効果的に使われている。

「これ以上の屈辱、不名誉にたえられない」というその屈辱の内容がこの時代・この階級の人たちにとってどれくらいのものであったのか、他にも出てくる醜聞に比べてそんなにひどいものだと考えられていたのかの感覚が今ひとつつかめなかったので、真相が完全に腑に落ちたとは言えなかったのが玉に瑕。