全脳自由帳

より考えるために書く

殺人症候群(貫井徳郎)

殺人症候群 (双葉文庫)

殺人症候群 (双葉文庫)

症候群シリーズ三部作の第3作、完結編。

警視庁内には、捜査課が表立って動けない事件を処理する特殊チームが存在した。そのリーダーである環敬吾は、部下の原田柾一郎、武藤隆、倉持真栄に、一見無関係と見える複数の殺人事件の繋がりを探るように命じる。「大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?」「この世の正義とは何か?」という大きなテーマと抜群のエンターテインメント性を融合させた怒涛のノンストップ1100枚!

今回環チームが追う相手はいわゆる「必殺仕置人」。それを法のもとに裁こうという立場である(そういう意味で、「誘拐症候群」の紹介文にあった環チームの説明「現代の必殺仕置人が鮮やかに悪を葬る!」は誤解を招く表現。この作品では全く逆の立場)。

「大切な人を殺した相手に復讐するのは悪か?」というのは、たとえば「さまよう刃」(東野圭吾)でも描かれているテーマ。この正解のないテーマと「正義 vs. 正義」という構図に正面から向き合っているのは読みごたえがあった。もう1つ、「人は立場の違いを越えて理解し、信じ合えるのか?」というようなテーマも含んでいる。ただしこれだけの長さ(文庫版で約700ページ)を費やす必要があるのかどうかは疑問。並行して進む話が多めなのでちょっとしんどい。

終盤、もうひとひねりあるものとずっと思いながら読んでいた。つまり彼は実はそんなことはしないのだと...。結果的に変な勘繰りをしたおかげで物語に入り込みそこなった感あり。だまされないように気をつけながら読むのもほどほどにしなければ。その前に出てきたあるトリックには、おかしいとは思いながらもしてやられたのだが。

「誘拐症候群」でもそうだったが、チームのメンバー個々の首尾にはかなり差があるように思った。ただ単に精鋭の集まりとしては描かれていない。この差のつけ方は意図的なものなのか。

いずれにしても、シリーズはこれで完結。環チームが再び動くことはない。最後はすっきりしたような寂しいような、余韻を残した終わり方だった。