米中毒別館

思いついたことをこまごまと。本の感想なども。

T型フォード殺人事件(広瀬正)

絶版になっていた広瀬正の作品が昨年集英社文庫からいくつか復刊されている(「マイナス・ゼロ」ではその予定を知らずに高い古本を買ってしまったが)。そのうちの1冊。

昭和モダン華やかなりし頃、その惨劇は起きた―。関西のハイカラな医師邸に納車された最先端の自動車「T型フォード」。しかし、ある日、完全にロックされたその車内から他殺死体が発見されたのだ。そして46年後、この車を買取った富豪宅に男女7人が集まり、密室殺人の謎に迫ろうとするが…。半世紀を経てあきらかになる事件の真相とは? 著者会心の傑作ミステリ中編ほか2編を収録。

「T型フォード殺人事件」は遺作(1972年)。殺人のトリックはすぐわかったし、話の構図も単純なのでおかしいなと思っていたら...。これはおもしろい。SF的な設定は特になく、ちゃんとした本格推理小説である。大正末期・昭和初期がからんでくるのは広瀬正らしいところ。

短編「殺そうとした」はデビュー作(1961年)。これも推理小説風。少ない伏線で一気に結末へなだれ込む。うまい構成に意表を突かれた。

「立体交差」は得意の時間旅行もの。書かれた当時「未来」だった1984年のできごとについては、当たっていることもあればはずれていることもある。基本的には時代がSF的に大きく変わっているという想定で書かれているので、はずれていることの方が多い。特に1つ、非常にバチ当たりなはずれがあるのはおもしろかった。結末は独特の味わいがあってとてもよい。