全脳自由帳

より考えるために書く

求婚の密室(笹沢左保)

1978年の作品。

東都学院大学教授・西城豊士は、自らの誕生日を祝うため軽井沢の別荘にルポライター天知昌二郎を始め、十三人の男女を招待した。西城はここで娘・富士子の婚約を発表するつもりでいた。だが、翌朝、密室状態にあった離れの地下室で、西城夫妻の服毒死体が発見される。床にはWSの文字が…。ダイイング・メッセージと密室の謎に挑む、会心の本格推理小説!

この作品の主人公・天知昌二郎と息子の晴彦、それに田部井編集長が「他殺岬」に出ていた人たちだと気づくのにしばらくかかった。天知がチョコレートを食べるところでやっと気がつく。天知シリーズは「他殺岬」が第1作でこれが第2作らしいので、たまたま正しい順番で読んだことになる(他にも彼らの登場する作品はあるのだろうか?)。

タイトルにある通りの密室もの。密室トリックはすばらしかった。これだけでも読む価値がある。それに、強いられた結婚という舞台設定が推理小説としても人間ドラマとしてもうまく活かされている。この暗澹たる人間模様はあとをひく。

ダイイングメッセージについては「こうではないのか?」と予想していたことがあったのだが、全くはずれていた。そんなに単純なものではないか。まあ真相もそう複雑なことではなかったけど。

これまでに読んだ作品にも共通して、「登場人物の会話が延々続くことにより状況を説明する」というくだりが多い文体が印象的。笹沢左保は多作な人ながら奇抜なトリックをいろいろと編み出し、実験的な手法にも種々取り組んだ人らしいので、もっと読み込んでみたくなる。