全脳自由帳

より考えるために書く

告白(町田康)

告白 (中公文庫)

告白 (中公文庫)

前から気になっていながら大作(文庫本で840ページあまり)ということもあって躊躇していたこの本をやっと読んだ。

人はなぜ人を殺すのか―。河内音頭のスタンダードナンバーにうたいつがれる、実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」をモチーフに、永遠のテーマに迫る著者渾身の長編小説。第四十一回谷崎潤一郎賞受賞作。

何十ページか読んだところで、「ひょっとしてこういうのがずっと続くのか?」と思った。それは当たっていた。主人公・城戸熊太郎の放蕩者ぶりを示す一代記がただただ続くのである。しかし決して退屈はさせない。河内弁のリズムに乗ってどんどん読み進めてしまう。

彼の内面も一緒に描かれるので、ただの放蕩者ではなく、自分の思っていることを言葉にして出せないもどかしさを持っているところが見えてくる。そしてそれが破滅的な結末、さらにはタイトルにもなっている「告白」というテーマにつながる。

実際に起こった「河内十人斬り」という事件をベースにした話であることはあまり意識せずに読んだのだが、あとで調べてみると、かなり史実に忠実に描かれているようである。それに作者がテーマを付与して描いた、まさに渾身の長編。読む人を選ぶかもしれないが、本屋でパラパラとめくっておもしろそうだと思った人には文句なしにオススメである。

河内弁は私の育った北摂地区の言葉とはかなり違うところもあるが、それでも同じ「大阪弁」のくくりに属する方言である。「ちょっと」の意味の「ちょう」(例: 「ちょう待ってえな」)などは私も昔使っていて大人になる過程で使わなくなった言い方なので懐かしかった。

作者の町田康がパンクバンドINUのボーカルの人だというのは知らなかった。彼らのデビューアルバム「メシ喰うな」は、バンド名もアルバムタイトルも強烈だったので印象に残っている(聴いたことはないけど)。ジャケットの写真の人が昔の町田康(当時は町田町蔵という芸名)。芥川賞作家にしてパンクボーカリスト、俳優。多才な人である。

メシ喰うな

メシ喰うな