全脳自由帳

より考えるために書く

And Then There Were None (Agatha Christie)

And Then There Were None

And Then There Were None

言わずと知れた「そして誰もいなくなった」。原題は最初"Ten Little Niggers"だったのがアメリカ版で"Ten Little Indians"となり、それがさらにこのタイトルに改められたという歴史がある。

大昔に日本語で読んだのだが、その時はそれほど強く印象に残らなかった。趣向としておもしろいとは思ったものの、最後に真相がわかってもただ「ふーん」という感じだったのである。どうも自分の読み方が浅かったような気がしてずっと気になっていたので、どうせならと原書で読んでみることにした。

(ハヤカワ文庫版の紹介文)
さまざまな職業、年齢、経歴の十人がU・N・オーエンと名乗る富豪からインディアン島に招待された。しかし、肝心の招待主は姿を見せず、客たちが立派な食卓についたとき、どこからともなく客たちの過去の犯罪を告発してゆく声が響いてきた。そして童謡のとおりに、一人また一人と…ミステリの女王の最高傑作!

いやーおもしろかった。まったく、昔読んだ時の私は何を考えていたのだろう。1人ずつ少なくなっていく彼らの間に起こるできごとややりとりには、結末がわかっていても十分にスリルがあるし、逆に真相を知っていて読むからこそトリックの巧妙さをじっくり味わうことができた。今さらながら、これは傑作である。こんな話を(最初に)作り上げたというのはすごいことだと思う。

英語で小説を読む時によく経験するパターンとして、最初の方が難しく、それを乗り越えると少しやさしくなって(or 調子がのってきて)スピードが上がり、最後の方でまた難しくなるというのがある。この作品もそうだった。できるだけ辞書を引かずに感覚で読もうと思っていたのだが、難しい単語が多くて、結局頻繁に使うことになった。

  • 誰かが言ったことを書く時に、"Philip Lombard said laconically:"(言葉少なに言った)というように頻繁に副詞が入り、それがコロコロ変わる。もちろん意図的にやっていることだと思う。slowlyやangrilyならいいが、難しいのが多い。他には"Blore went on stolidly:"(感情のこもらない調子で続けた)、"Vera said scornfully:"(軽蔑をあらわにして言った)など。副詞の意味がわからなくても話を理解するのに支障はないが、スルーしてしまうのは気持ちが悪い。
  • 鍵となる童謡の歌詞に出てくる"red herring"が何か別のものを示唆する慣用句らしいということはなんとなくわかったが、読む時に使っていた辞書(携帯電話にバンドル)にはherring(ニシン)単独でしか載っていず、最後まで意味がわからなかった。日本語版にはちゃんと注釈がある。これは「燻製のニシン」で、猟犬を訓練する時に燻製のニシンを使うことから、「注意をそらすもの」という意味になるらしい(→ goo辞書)。...と思ったら、はてなキーワードにもあるではないか(→ レッドヘリング)。もしかして、日本のミステリーファンにはこの作品から知られるようになった言葉なのか。