全脳自由帳

より考えるために書く

スタイルズ荘の怪事件(アガサ・クリスティ)

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

1920年アガサ・クリスティのデビュー作。名探偵ポアロの初舞台でもある。

旧友の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングズは、到着早々事件に巻き込まれた。屋敷の女主人が毒殺されたのだ。難事件調査に乗り出したのは、ヘイスティングズの親友で、ベルギーから亡命して間もない、エルキュール・ポアロだった。不朽の名探偵の出発点となった著者の記念すべきデビュー作が新訳で登場!

よくできた作品だと思った。「アクロイド殺し」や「ABC殺人事件」ほどのインパクトはないが、手の込んだトリックに意外な真相。推理小説の普遍的テーマともいうべき「密室」が登場し、毒殺の方法も普通ではない。真相をつかんでいながらなかなか明かさないポアロがすでに描かれている。イギリスの静かな村の旧家という舞台が醸し出す雰囲気もよし。かれこれ90年前にこんな作品が書かれていたのである。

海外の作品には多かれ少なかれあることだが、登場人物の名前がややこしかった。まず苗字が「イングルソープ」と「カヴェンディッシュ」。もっと簡単な、「スミス」とか「ジョーンズ」とかにしてくれたらいいのに。おまけに同じ人のことを「エミリー」と呼んだり「ミセス・イングルソープ」と呼んだりするし、「ミスター・カヴェンディッシュ」というのがジョンのことであることもあればローレンスのこともある。さらにベルギー人のポアロは「ミスター」「ミス」の代わりに「ムッシュー」「マドモアゼル」を使ったりする。どれが誰のことかを理解しておくのにかなりの労力を使わなければならなかった。