米中毒別館

思いついたことをこまごまと。本の感想なども。

バイバイ、エンジェル(笠井潔)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

笠井潔のデビュー作。「The Larousse Murder Case」という英題がついている。日本語にすると「ラルース(赤毛)家殺人事件」といったところ。しかし原題は「バイバイ、エンジェル」である。

ヴィクトル・ユゴー街のアパルトマンの広間で、血の池の中央に外出用の服を着け、うつぶせに横たわっていた女の死体は、あるべき場所に首がなかった。こうして幕を開けたラルース家を巡る連続殺人事件。司法警察の警視モガールの娘ナディアは、現象学を駆使する奇妙な日本人矢吹駆とともに事件の謎を追う。ヴァン・ダインを彷彿とさせる重厚な本格推理の傑作、いよいよ登場。

舞台はパリ。探偵役の矢吹駆以外は全部フランス人。ジャネットにオデットにジョゼット。アンドレにアントワーヌ。ジルベールにクレールにフロサール。覚えにくくてしょうがない。文体はまるで海外作品を翻訳したもののようである。もちろん翻訳ものよりはずっと自然な文章。ところどころに、「不在証明(アリビ)」というようにフランス語のフリガナまでふってある。

この作品に入り込めるかどうかは、矢吹駆と他の人たちとの間の、「本質直感」「観念による殺人」「革命と人民・国家」などの哲学的な議論(思想対決)になじめるかどうかにかかっていると思う。私にはかなりつらかった。特に最後の数十ページを読むのには時間がかかった。ただ、フランスを舞台に選んだ理由はわかった気がする。

殺人のしかけと謎解きは結構気に入った。首切りの理由は興味深いものだったし、他の事件のトリックも手が込んでいてよし。これらを矢吹駆が「本質直感」で推理したというのにはピンとこなかったけど。