全脳自由帳

より考えるために書く

僧正殺人事件(ヴァン・ダイン)

僧正殺人事件 (創元推理文庫)

僧正殺人事件 (創元推理文庫)

ここらで海外もののミステリーもと思い、名作と誉れの高いこれを読んだ。

今ひとつ印象に残らず。最初に書かれているような「もっとも陰惨・奇怪かつ戦慄すべき事件」という感じはあまりしなかったし、ファイロ・ヴァンスの推理にもそれほど感心しなかった。結末はクイーンの「Yの悲劇」と共通するものがあって、「またか」と思ったし。

それより、海外ミステリーを読むとなぜか、国内ものと海外もの(翻訳)との文章の質の違いを強く意識せざるを得ない。いかにも「英語を翻訳しました」という文章を読むのがだんだんつらくなってくるのである。SFだとこんなことはあまりないのだが。

外国文学の翻訳というのは、最初から日本語で(プロの作家が)書いたものに比べて日本語の文章としての質がどうしても落ちるのはしょうがないが、翻訳家の人たちにはもうちょっとがんばってほしいものである。気になるところの多くは微妙な表現だが、この本にはこんなのもあった。

「すると、今朝きみは、弓術室には、はいらなかったんだね?」
「いいえ、はいりませんでした」

ちゃんと「はい、はいりませんでした」と訳してくれよ。英語では"No"なのだろうけど。

この本の前にジョン・ディクスン・カーの「三つの棺」を読み始めたのだが、「いかにも翻訳」の文章に辟易して最初の方でやめてしまった。いっそ「オリエント急行殺人事件」のように原書で読もうかと思ったものの、カーの作品はどれも絶版になっていて、古本はやたら高い。ヴァン・ダインの原書もどれも高かった。