全脳自由帳

より考えるために書く

戻り川心中(連城三紀彦)

連城三紀彦の代表作とも言われる短編シリーズ。このハルキ文庫版では、他社版に入っていない話を含めて8編全てが収録されている。

桂川情死」「菖蒲心中」という、二つの心中未遂事件で、二人の女を死に追いやり、自らはその事件を歌に詠みあげて自害した大正の天才歌人・苑田岳葉。しかし心中事件と作品の間には、ある謎が秘められていた──。日本推理作家協会賞受賞の表題作をはじめ、花に託して、美しくも哀しい男女のはかない悲劇を詩情豊かに描き切る「花葬シリーズ」八篇を完全収録した傑作ミステリー群。

全部読み終わってから、どの話にも「花」が出てきたことに気がついた。「花葬シリーズ」というのか。

花をモチーフにしているだけあって、美しい話ばかりである。それでいてしっかりと推理小説になっている。作者が「ミステリーと恋愛の結合」をねらいとしていたと言っている通り。こういう構造のものを8編も成立させてしまうのは、「私という名の変奏曲」などのアクロバット的な連城作品と共通したものを感じる。

上記のような構造は共通しているのだが、話の時代背景は明治から昭和まで様々だし、一人称の語りのものもあれば歴史上のできごとを語るように淡々と記述していくものもある。推理小説としてのトリックもいろいろ。「おお、こういうトリックを恋愛話と組み合わせるのか」と驚いたものもあった。

マイベストはどれかというと...難しい。表題作「戻り川心中」はさすがによくできていて、美しさも際立っていると思う(「夕萩心中」とともに、作中に登場する短歌まで作者が作ったというのはすごい)のだが、意外に印象に残るのが最初の「藤の香」。ストーリーだけでなく、時代・舞台の設定にも語り口にも味わいがある。