全脳自由帳

より考えるために書く

ラプラスの魔女(東野圭吾)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

 

 東野圭吾作品のコンプリートを目指しているのだが、最近あまり読んでいない。これじゃ踏破は遠いなと思っていたところにこれが文庫になったので読んだ。

ある地方の温泉地で硫化水素中毒による死亡事故が発生した。地球化学の研究者・青江が警察の依頼で事故現場に赴くと若い女の姿があった。彼女はひとりの青年の行方を追っているようだった。2か月後、遠く離れた別の温泉地でも同じような中毒事故が起こる。ふたりの被害者に共通点はあるのか。調査のため青江が現地を訪れると、またも例の彼女がそこにいた。困惑する青江の前で、彼女は次々と不思議な“力”を発揮し始める。

「ラプラス」というのが何の象徴なのか、深く考えずに読んだのだが、そうであったか。かなり理科系的、SF的なミステリーである。いろんな意味で東野圭吾らしい。東野作品の得意パターンをいくつか組み合わせて1つ書き上げた、という感じは否めない。

こういう特殊な境遇の人が登場する場合、その人(たち)にどのくらい感情移入できるかが作品のおもしろさにかなり影響する。この作品ではそれほど感情移入できなかった。それにどうしても「こんなことありえない」と思ってしまう。

一方で、好奇心を満たすためには危険な行動もいとわない青江先生には大いに共感。

「君のせいで限界まで膨らんでしまった私の好奇心については、どうしてくれる?」

このセリフには笑った。

数え方が正しければ、東野圭吾はこれまでに93作を世に出している。そのうち83作を読んだ。あと10作。ノルマだと思わずに、読みたい時に読んでそのうちコンプリートしたい。

イナイ×イナイ(森博嗣)

イナイ×イナイ PEEKABOO (講談社文庫)

イナイ×イナイ PEEKABOO (講談社文庫)

 

Gシリーズの文庫化された作品はすべて読んだので、Xシリーズを読み始めた。これが第1作。2007年の作品。英題の”Peekaboo”は「いないいないばあ」のこと。

黒髪の佳人、佐竹千鶴は椙田探偵事務所を訪れて、こう切り出した。「私の兄を捜していただきたいのです」。双子の妹、千春とともに都心の広大な旧家に暮らすが、兄の鎮夫は母屋の地下牢に幽閉されているのだという。椙田の助手、小川と真鍋が調査に向かうが、謎は深まるばかり――。Xシリーズ、文庫化始動!

Xシリーズについて作者は以下のように書いている。

これまでのシリーズとはまた少し違って、少々レトロなものを書きたいと思います。ノスタルジィでしょうか。もちろん、新しさあってのレトロですが。Gシリーズの途中に、このシリーズをスタートさせるのも、当初から計画していたことです。

Xシリーズ - 浮遊工作室 (ミステリィ制作部)

旧家が舞台なので、レトロといえばレトロだった。しかし多分、レトロという言葉にはそれ以上の意味が込められているのだろう。なんとなく話の展開がゆっくりだということは言える。

謎の解決はされるのだが、スパッとはいかない。謎解きありのミステリーを読んでいるというより、普通の小説を読んでいる感じに近い。そういうシリーズになるような予感がする。Gシリーズ(まだ全巻読んでいないが)のように、シリーズを通してのしかけが用意してありそう。そこにも注目しながら読むことにしよう。

「へえ……」鷹知は笑った。「案外、古風なんですね、小川さん」
「見た感じよりも、年上なんですよ」真鍋が言った。
「何ですって?」小川は振り返って、彼を睨んだ。「何て言った? よく聞こえなかったけど」
「いえ……、あれ、おかしいな、褒めたつもりだったんですけど」真鍋は目を丸くする。
「褒めてない。全然褒めてない」

わかるわかる。同じことを言うにも、言い方によって受け取られ方は全く違う。この小川令子と真鍋瞬市のコンビにも期待。二人がくっつくことはないと思うが。真鍋はどうということのない奴かと思っていたらそうではなかった。

途中の家(エラリー・クイーン)

途中の家 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-19)

途中の家 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-19)

 

1936年の作品。国名シリーズ最後の「スペイン岬の秘密」と、先日書いた「日本庭園の秘密」の間に発表されている。

あばら家から女の悲鳴が聞え、一台の車が飛び出していった。義弟のジョゼフに会うためやって来た青年弁護士ビル・エンジェルが、その家の中で見たものは、胸を刺され虫の息となっている義弟の無残な姿だった。しかも、ビルの友人エラリイ・クイーンの手腕により、意外にも被害者が、ニューヨークとフィラデルフィアにそれぞれ妻を持つ重婚者であったことが暴露される。容疑はフィラデルフィアに住む妻にかかったが、果して被害者はどちらの人間として殺されたのか? 自選ベスト3に選ばれた面目躍如たる迫力篇。

「読者への挑戦」が入っている。例によって、犯人の見当は皆目つかず。解決編はこれぞクイーンという感じのロジカルな謎解き。殺人現場の環境がちょっと人工的な気がしたが、ありえないというほどではない。謎解きの根拠として、今の時代の日本人には感覚としてなかなかわからない部分もあったが、まあしょうがない。どうせ解けるわけでもなし。後からふりかえると伏線の張り方がちょっとあからさまなように見えるのも、こちらの考えすぎというか負け惜しみだろう。伏線だということを見破れなかったわけだし。

国名シリーズと比べて、ドラマの要素が少し入ってきていると言われているこの作品。確かに人間模様を描こうという意志は感じるが、古い文体とエラリイの淡々としたキャラクターのせいか、あまりウェットなものは感じなかった。

翻訳文は読みにくい。全体的にもう少し自然な日本語にしてほしかった。おかげでだいぶ読むのに時間がかかった。「訳者あとがき」で、1ヶ所非常に翻訳に苦労したということが書いてあったが、そこに関しては英語と日本語の大きな違いなのでしょうがないと思う。

女性に対して「心配ありませんよ。(中略)このぼくは中性なんですからね」というエラリイのセリフがある。女性には(男にも)興味ないのか?

キウイγは時計仕掛け(森博嗣)

キウイγは時計仕掛け KIWI γ IN CLOCKWORK (講談社文庫)

キウイγは時計仕掛け KIWI γ IN CLOCKWORK (講談社文庫)

 

S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズときて、今はGシリーズを読んでいる。いつのまにか9作目。

建築学会が開催される大学に、γの字が刻まれたキウイがひとつ届いた。銀のプルトップが差し込まれ手榴弾にも似たそれは誰がなぜ送ってきたのか。その夜、学長が射殺される。学会に参加する犀川創平、西之園萌絵、国枝桃子、海月及介、加部谷恵美と山吹早月。取材にきた雨宮純らが一堂に会し謎に迫るが。

 Gシリーズについて作者は以下のように書いている。

ミステリィについて自分なりに見直し、あまりトリッキィなものではなく、どろどろしたものでもなく、真正面から誠実に、シンプルできめの細かい作品を書きたいと思うようになりました。また、矛盾しているように感じられると思いますが、一方では書かなくても良いことを極力書かない、という当たり前の素直な方針を掲げ、ナチュラルでアキュラシィな作りをなんとか目指したいと今は考えています。

Gシリーズ - 浮遊工作室 (ミステリィ制作部)

確かにどの作品も事件の構造はシンプルなのだが、作を追うごとにだんだんわけがわからなくなってきた。この「キウイγ」などは、何が解決なのかよくわからない。

シリーズに通底した謎がいろいろあるのは明らかで、どうやら次作「χ(カイ)の悲劇」以降の3作で解明されていくらしい。森博嗣作品は、作品やシリーズにまたがったしかけが大きな魅力の1つなので、いやが上にも期待が高まる。ひとまず「χの悲劇」が文庫になるのを待ちながら、次のXシリーズを読むとしよう。

五声のリチェルカーレ(深水黎一郎)

五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)

五声のリチェルカーレ (創元推理文庫)

 

今年に入ってから読みだした深水黎一郎の作風がすっかり気に入っている。論理的でわかりやすくてウンチクの多いのが好きなのである(他には森博嗣とか京極夏彦)。

これは2010年の作品。

昆虫好きの、おとなしい少年による殺人。その少年は、なぜか動機だけは黙して語らない。家裁調査官の森本が接見から得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉だった。無差別殺人の告白なのか、それとも―。少年の回想と森本の調査に秘められた〈真相〉は、最後まで誰にも見破れない。技巧を尽くした表題作に、短編「シンリガクの実験」を併録した、文庫オリジナル作品。

この作品の「謎」はどこにあるのか。素直に読んでいるとその「焦点」についてミスリードされる。他の作品でもそうだが、この人は読者との「対決」のしかたを工夫している。しかけがわかったと思っていたら、ちゃんとわかってはいなかったのだった。スッキリした読後感ではないが、作者の企みにうならされる。

そして、相変わらずウンチクが深くて気持ちがいい。今回は虫とバッハである。

併録の「シンリガクの実験」、こういう話は好きである。学校で暗躍する主人公の活動、そして真相と結末。こちらは結構スッキリした。

日本庭園の秘密(エラリー・クイーン)

日本庭園の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

日本庭園の秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

流行作家カレン・リースのニューヨークの邸内に美しい日本庭園が造られた。だが、結婚を控え、幸せの絶頂にあった彼女が、その庭をのぞむ一室で怪死を遂げる。窓には鉄格子がはめられ、屋根裏部屋へ通じる扉は開かず、事件現場に出入りした者は誰もいないようにみえた。密室と思われる状況下の悪夢の死。名探偵エラリイ・クイーンの推理はすべての謎を解明できるのか? 日本のすべての読者に捧ぐ<国名シリーズ>最終作

「日本」とついていてもこれは国名シリーズの作品ではない、と聞いていた。原題は"The Door Between"で、国名は入っていない。邦題をつける時に「日本」を入れただけだと思っていた。

しかし上記紹介文(裏表紙)には「国名シリーズ」とあるし、解説には、「当初は”The Japanese Fan Mystery”というタイトルだった」と記されている。当時(1937年ごろ)の日本との関係に配慮して変更したとのことだが、これも定かではないらしい。また、刊行順では前作「スペイン岬の秘密」との間に「途中の家」がはさまっている。いろいろ総合すると、国名シリーズの作品ではないとしておいた方がよさそう。

で、内容はどうだったかというと…謎解きにはあまり満足できなかった。このパターン(何のことかは秘す)、あまり好きではない。最後はなかなか意外だったが。

国名シリーズではないらしいのに、日本文化に関することは割とよく出てくる。日本人のことはあまりよい感じには描かれていないし、ちょっと差別的な見方をされている気もするが、この時代ならそんなものだろう。

この作品は他のクイーン作品(早川文庫)よりも翻訳がいくぶん読みにくいように思った。おかげで少し骨が折れた。

創元推理文庫の邦題は「ニッポン樫鳥の謎」である。こちらの紹介文(多分本の裏表紙にも書いてあるのだと思う)には完全なネタバレがいくつか。何を考えて書いたのだろう。見たのが「日本庭園の秘密」を読んでからでよかった。

木製の王子(麻耶雄嵩)

木製の王子 (講談社文庫)

木製の王子 (講談社文庫)

2000年の作品。如月烏有や木更津悠也が登場するシリーズ。

比叡山の麓に隠棲する白樫家で殺人事件が起きた。被害者は一族の若嫁・晃佳。犯人は生首をピアノの上に飾り、一族の証である指環を持ち去っていた。京都の出版社に勤める如月烏有の同僚・安城則定が所持する同じデザインの指輪との関係は? 容疑者全員に分単位の緻密なアリバイが存在する傑作ミステリー。

分単位のアリバイ、どう崩すか? 興味はまずそこに行くのだが、その後に何とも奇妙な、バカバカしい真相が待っている。麻耶作品ならそれもありだと思えるのではあるが。

最後の最後に、なぜかミステリー小説によく登場する「あるもの(というか、属性)」が出てきて、「またか」と思わされた。好みの問題ではあるが、他に何かなかったのかという気持ちは残る。

奇面館の殺人(綾辻行人)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

前作から6年、館シリーズ第9作。執筆の状況が作者のTwitterで語られていたりしたので、これは文庫化までとても待てない。ノベルズで購入。

奇面館主人・影山逸史に招かれた六人の男たち。館に伝わる奇妙な仮面で全員が“顔”を隠すなか、妖しく揺らめく〈もう一人の自分〉の影…。季節外れの吹雪で館が孤立したとき、〈奇面の間〉に転がった凄惨な死体は何を語る? 前代未聞の異様な状況下、名探偵・鹿谷門実が圧巻の推理を展開する!
名手・綾辻行人が技巧の限りを尽くして放つ「館」シリーズ、直球勝負の書き下ろし最新作。

これまでの館シリーズに漂っていた怪しい感じは減じているが、この作品は「奇面館」という変わった趣向を単純に楽しむべきだと思う。

真相究明のポイントとなるロジックは全くわからなかったし、それに加えて披露される「驚愕の事実」の脱力加減も気持ちいい。変な事実なのだが、作者が意識的にやっていることを伝えてきているので許そう。

途中で鹿谷門実が披露する「あるもの」にはニヤリとさせられた。

凶鳥の如き忌むもの(三津田信三)

「まがとりのごときいむもの」。2006年、刀城言耶シリーズ第2作。

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)

「怖さ」という点では第1作「厭魅の如き憑くもの」ほどではなかったが、ライトな気持ち悪さとゆったりした進行とがあいまってまた違ったいい感じを醸し出している。

メイントリックは一瞬だけ頭に浮かんだのにすぐ捨ててしまっていた。やられた。周辺のトリックはかなり微妙というか、刀城言耶があまりにも千里眼すぎる印象を持ってしまうのだが、微に入り細に入り(のつもりで)行われる前半の検討と組み合わせると、これがまたいい味を出している。

苦労したのは島や建物の構造の理解。というより、全くのお手上げ。図面がないので、最後までさっぱりわからなかった。それでもストーリーを理解することはできるが、図はほしい。文章だけで構造を把握できる人はいるのだろうか?

この作品はずっと文庫になっていなかったのでしかたなく講談社ノベルス版を買ったのだが、今年10月にひょっこり文庫になっていた。ちょっと悔しい。

凶鳥の如き忌むもの (講談社文庫)

凶鳥の如き忌むもの (講談社文庫)

ラットマン(道尾秀介)

ラットマン (光文社文庫)

ラットマン (光文社文庫)

2008年刊行(初出2007年)の作品。いわゆる「十二支シリーズ」の1つ。

結成14年のアマチュアロックバンドのギタリスト・姫川亮は、ある日、練習中のスタジオで不可解な事件に遭遇する。次々に浮かび上がるバンドメンバーの隠された素顔。事件の真相が判明したとき、亮が秘めてきた過去の衝撃的記憶が呼び覚まされる。本当の仲間とは、家族とは、愛とは―。

見事なトリックだった。この話が後半こんなふうになっていくとは全く予想もつかなかった。満足満足。

…というのはミステリーとしての話だが、道尾作品の場合、作者が「本格ミステリほど人間を描ける、感情を描けるジャンルはほかにない」と言っていたことをいつも思い出す。この作品での主人公のドラマはどうだったか? いい話ではあるのだが、やはりあくまでミステリーとして楽しめばいいのではないかという気もするのである。しかし序盤からの暗くてどうしようもない感じは、よい読後感につながった。